日大学長、謝罪会見 危機管理「できてないと実感」 悪質タックル

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 以下、朝日新聞デジタル版(2018年5月26日05時00分)から。

 アメリカンフットボールの日本大と関西学院大の定期戦で日大選手が関学大の選手に悪質なタックルをして負傷させた問題で、日大の大塚吉兵衛学長が25日、記者会見し「関学の関係者に謝っても謝りきれない事態を招いた」と大学として初めて謝罪した。アメフト部の指導体制を刷新する意向を示す一方、選手と前監督・コーチの見解が食い違っている点についてはコメントを避けた。

 大塚学長は大学としての対応が遅れたことを認め「失墜した信頼を回復すべくこれから真摯(しんし)に取り組んでいきたい」と述べた。当初は部活の試合中のトラブルと捉えていたため「部と部のやり取りに任せてしまった」と釈明。大学の危機管理対応について「残念ながらできていないのが実感」と述べ、今後は大学として部活動への関与を強め、再発防止に取り組む考えを示した。

 タックルをした日大の選手に関して、大塚学長は「学生一人で記者会見の場に放り込んでしまった。その責任を痛感している」と謝罪。一日も早く大学に復帰できるように「勉学はもとより、卒業後の進路まで本人の意向があれば全力をあげて彼の将来に貢献したい」と語った。

 タックルをした選手と、内田正人前監督らとの間では、指示の有無や発言の解釈が食い違っている。大塚学長は「学生は(記者会見で)真摯に訴えていた」と述べる一方、前監督らの説明について問われると、第三者委員会が調べるとして「深くコメントはできない」と繰り返した。また「今の学生と指導者の理解の違いが多少あるのかな」とも述べた。

 現在活動を自粛しているアメフト部については「コーチ陣を取りかえなければと感じている」としたうえで「部活動の永久停止は考えていない」と述べた。

 大塚学長は会見に運動部を統括する責任者として出席したと説明。常務理事の前監督に物申せない面があるのでは、という質問に対しては否定したうえで「私が統括」と語った。学校法人のトップである田中英寿理事長に説明を求める声も相次いだが、「どこまで必要かどうか判断しかねる」とした。

 問題発覚以降、大学の学部には苦情の電話が鳴りっぱなしだといい、「一日でも学生の皆さんに早く安心感を与えたい」と述べた。会見の冒頭、報道陣に紛れ込んだとみられる女性が「お前らがしっかりしないからだよ」と大塚学長に詰め寄ろうとし、大学職員に退場させられる場面もあった。

 ■<視点>運動部、統治不在浮き彫り

 日大の大塚学長が「当初、部の中の問題として捉えていた」と話したように、日大の対応が後手に回ったことは、大学が運動部へのガバナンス(統治)を発揮できていない現状を浮き彫りにしている。

 もともと運動部は学生の自治活動として発展してきた。大学は関与せず、安全管理を含め、問題が起こった時の責任の所在はそもそもあいまいだ。

 一方で、私学を中心に、スポーツは大学のイメージアップなどへの広告塔ともなっている。そうなると、ただでさえしっかり管理する対象でないうえに、強くしてくれる指導者に物申すこともできなくなる。こうしてガバナンスがない構造ができあがる。

 さらに日大アメフト部の場合、内田正人前監督は学校法人の常務理事。指導者が大学の要職も兼ねれば、学内における部外からのチェック機能は完全に喪失するのではないか。この点に関しては、大塚学長も「そこは本当に真剣に考えないといけない」と語った。

 ガバナンスの不在は日大だけの問題ではない。

 スポーツ庁は来春、全米大学体育協会(NCAA)をモデルに、競技を横断した大学スポーツの統括組織「日本版NCAA」の創設を目指している。

 運動部学生の学業とスポーツの両立を促すために、年間取得単位数の基準をつくったり、大会の活性化に向けてマーケティング戦略を進めたりするほか、反スポーツ的行為による不祥事、重大事故の再発防止策の共有も使命の一つになる。加盟するかどうかは各大学の判断だが、この問題は、部の統治を大学ができない以上、統括組織の関与が必要なことを示している。(編集委員・中小路徹)