以下、朝日新聞デジタル版(2018年5月26日17時21分)から。
アメリカンフットボールの日本大と関西学院大の定期戦(6日、東京)で日大の守備選手が関学大の選手に悪質なタックルをして負傷させた問題で、日大の再回答書に対する関学大の見解は次の通り。
日大再回答は「多くの矛盾が存在」 関学大が会見で表明
【現時点での弊部見解】 これまでの事実経過および日大DL本人・代理人の会見、内田監督・井上コーチの会見の内容を合わせて勘案すると、再回答書の内容には多くの矛盾が存在し、真実とは到底認識できません。
前回の回答書と同様に、日大(部)はルールの範囲内でプレーすることを原則とし、相手に怪我(けが)を負わせる意図をもってプレーするような指示はしておらず、指導者の指示と学生の受け取り方に乖離(かいり)があったとの主張がなされていますが、特に以下の点に強い疑念・疑問があります(前回も指摘している点を含みます)。
?日大(部)として日大DLへのヒアリングが現在に至るまで行われておらず、1回目の回答書も今回の再回答書も日大DLのヒアリングが行われないまま記されています。申し入れも21日までありませんでした。もし内田監督・井上コーチが自らの指導した内容と日大DLの行為に乖離があったとするのであれば、日大DLに対して部としてすぐに正式にヒアリングをして乖離した理由を確認するのが当然のことと思われますが、それがなされていないのは極めて不可解です。
?日大DLの代理人・西畠正弁護士により、試合翌日以降に内田監督及び井上コーチとの複数回あった面会時にも反則行為の事実確認やそれが生じた理由や背景については一切質問されることはなかったことが確認されています。監督・コーチは、自分が指導した内容と日大DLの行為に乖離があったと認識していたはずなのに、面接した際に日大DLが異例の反則行為に至った理由を問わなかったことは極めて不自然に思われます。
?関学攻撃第1プレーで日大DLが反則行為(試合時は「アンネセサリーラフネス」と判定。試合後に関東学生アメリカンフットボール連盟が資格没収〈退場〉に値する「ひどいパーソナルファウル」に修正)を行い、井上コーチはそれを現認していたにも関わらず、日大DLをベンチに戻すこともしていません。内田監督は「ルールの範囲内でプレーすることを原則としている」と発言しているにもかかわらず、パーソナルファウル(重大な反則)の内容を確認せず、日大DLをベンチに戻すこともしていません。監督・コーチの指示と日大DLの行為に乖離があったというのであればすぐに反応したはずですが、試合の映像を見ても井上コーチに慌てる素振りがまったくないのは極めて不可解です。
?第1プレーについて内田監督は5月23日の記者会見で「見ていなかった」と発言し、再回答書においても「ボールの動きに着目していたため、反則については現認していなかった」と記しています。しかし、これは極めて重要な点でありながら、試合後のコメント、1回目の回答書、5月22日の記者説明、いずれにおいても言及がなく、非常に不可解です。
?第3プレーでも日大DLが重い反則行為(アンネセサリーラフネス)を行い、井上コーチはそれを現認していたにも関わらず、日大DLをベンチに戻して厳しく指導・注意するようなことをしていません。再回答書では、「井上コーチは2回目のファウルでボール保持者に向かってプレーするよう注意指導・指示を出しております」としていますが、映像で見る限りフィールド内の選手を呼び寄せて一言声をかけているだけで、「注意指導・指示をした」というレベルからは程遠いものです。内田監督はこの際も当該選手をベンチに下げて指導・注意する(あるいはコーチに指導・注意するよう指示する)ことはしていません。「乖離」がこれほど明確になっているにもかかわらず反応が乏しいのは極めて不可解です。
?第5プレーでも日大DLが重い反則行為(パーソナルファウル)を行い、短期間に3回の重い反則行為を重ねて資格没収(退場)という処分を受けたにも関わらず、ポジション担当である井上コーチは内田監督にすぐに報告をしていません。映像でも、監督およびコーチはベンチに戻った日大DLに誰も指導・注意をしているように見えず、極めて異例の事態でありながらベンチ全体が一連の行為をあたかも予測していたように振る舞っており、強い違和感を覚えます。
?内田監督・井上コーチが自分の指導した内容と日大DLの行為に乖離があったと考えるのであれば、日大DLが1プレー目に極めて例外的な反則行為を行ったことを内田監督が認識したとされる9日に、負傷した関学QBおよび弊部に対して謝罪の意を伝えようとするのが自然のことと思われます。しかし、日大(部)から弊部に連絡が初めてあったのは11日20時15分でした(井上コーチから)。弊部が最初の申し入れ書を送付したのが10日、到着が11日であり(配達証明あり)、弊部との文書による問答が始まるまで第1プレーの反則行為を映像で確認しながら「非常に危険で悪質な行為」(再回答書)とは認識していなかったという疑念が拭えません。
?井上コーチは「1プレー目でQBを潰してこい」と日大DLに指示したことや、「QBを壊す」ことを試合出場の条件に挙げていたことは認めていますが、「潰せ」という言葉に怪我をさせる意図はなかった、としています。また、日大DLが陳述した「井上コーチが『相手のQBが怪我をして秋の試合に出られなかったらこっちの得だろう』と発言した」という点についても否定しています。「潰せ」「壊せ」は日常的、慣例的にチーム内で使われ続けてきたと再回答書に記されていますが、「相手を潰せ」「関学を潰せ」は「勝て」と同義と理解し得るものの、「QBを潰せ」「QBを壊せ」という表現には結果として負傷させるという明確な目的が示されていると考えるのが自然です。まして「1プレー目で」(つまりは1プレーで)と条件を絞り込んでおり、日大DLが「相手を潰すぐらいの強い気持ちでやってこいという意味ではなく、本当にやらなくてはいけないのだ」とまで思い詰められるに至った理由を考えれば、指導者の指示と日大DLの受け止め方は整合していたと考える方が合理的です。
?日大DLは負傷した本学選手に対する謝罪の際に、弁護士は同席せずに自ら手書きで書いたメモに基づいて自らの口で事実経過を話していました。内容は会見とほぼ同じであり、一貫性も高く、事実関係と整合的で極めて信憑(しんぴょう)性が高いと考えられます。内田監督および井上コーチの会見での発言内容は、これを否定するのに十分な根拠があるとは思えません。
?再回答書では、本件が発生した原因を、日大DLが精神的に追い詰められていたため、井上コーチの言動を日大DLが誤って解釈したことにあると結論付けています。時系列に従って詳細な事実関係を振り返った日大DLの会見内容から見て、指導陣による単なる圧力で善悪の判断を逸脱してしまうような衝動性や短絡性があるとは到底思えません。本人へのヒアリングも行っていないなか、日大DLの精神状態を悪質プレーの原因とする内容は、日大DLの尊厳を著しく損ねるものでもあり、納得できるものではありません。
以上の点から、再回答書の内容および内田監督、井上コーチの会見での発言内容には極めて不自然な点が多く、指導者が真実を語っていると信じるには根拠が不足しており、誠意ある回答として受け取ることはできません。現段階では日大(部)の見解には強い疑念を抱かざるを得ず、これ以上の問答は平行線をたどる可能性が高いと考えます。
【弊部としての今後の方針】
・以上の見解を踏まえて、日大(部)との試合については選手の安心・安全を担保することができないと判断し、日本大学との定期戦は十分な信頼関係を取り戻すまで中止することとします。
・学校法人日本大学による第三者委員会、関東学生アメリカンフットボール連盟の規律委員会等による客観的な立場からの真相究明を強く要望いたします。真相究明にあたっては全面的に協力いたします。
・しかし、上記いずれの団体・組織とも調査機能には限界があり、最終的には捜査機関の捜査によって真相が究明されることを強く希望いたします。捜査には全面的に協力いたします。
・被害を受けた選手およびそのご家族の支援を継続していきます。
・日大の当該選手およびそのご家族に対しても可能な限り支援の可能性を模索していきます。
※本文書における内田監督、井上コーチという表記は試合当時のものです。内田監督は5月19日、井上コーチは5月23日にそれぞれ辞任を表明されています。
以上
2018年5月26日 関西学院大学体育会アメリカンフットボール部