以下、朝日新聞デジタル版の「【詳報】自民党は自由か? 安倍氏と石破氏が論争」(2018年9月14日19時00分)から。
「やっている感」を演出すれば、都合の悪い問題は国民に忘れ去られる――。自民党総裁選で初めての討論会を通じて、安倍晋三首相のこんな政治手法と狙いが垣間見えました。
報道各社からの首相への質問は、森友・加計学園問題に集中しました。「国民が疑念を持つのも当然」「慎重に謙虚に丁寧に政権運営にあたりたい」「文書の改ざんは二度とあってはならない」。安倍さんは先の通常国会で繰り返したように、紋切り型の釈明に終始しました。
その中で、本音がにじむ場面がありました。昨年9月の唐突な衆院解散をめぐり、こう言ったのです。
「この問題も含めて、昨年総選挙を行い、この問題で行ったわけではないが、このことの議論をいただいた。その意味で、国民の審判を仰いだ」
ちょっと待ってほしい。首相は解散時、少子高齢化と北朝鮮情勢への対応を挙げて「国難突破解散」と銘打ったはずです。事実上の不意打ち解散で、森友・加計問題のリセットを図ったことがうかがえました。
自民党が大勝したものの、その後に新たな文書の存在や公文書改ざんが発覚し、問題は再燃しました。そして首相は問題を「公文書の適正な管理」に置き換え、疑惑からの逃げ切りを図っています。
討論会ではさらに、質問者から「国会答弁でも誠実に答えていない」との指摘が出るとこう答えました。
「ご批判を真摯(しんし)に受け止め、誠実に答弁していきたい。大切なことは、信頼回復の道は、一つひとつお約束したことを実行していくことだと決意している」。これも、説明責任を逃れる露骨なすり替えです。
一方の石破茂・元幹事長の訴えも物足りませんでした。教科書に出てきそうな主張を誠実そうに並べるばかりでした。言葉が踊らないのはスタイルだとしても、迫力不足の感は否めません。社会保障や財政再建などの政策論争も細切れで、議論は深まりませんでした。
石破氏は「同じ自民党なので、(安倍氏と)方向性が違うはずはない」と言いました。そうであったとしても、疑惑であれアベノミクスや改憲の行方であれ、「国民が知りたいこと」を首相から引き出せるのはいまや石破氏しかいないのも事実なのです。(斉藤太郎)