以下、朝日新聞デジタル版(2018年10月31日07時40分)から。
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設工事が、再開されることになった。政府は国民が行政への不服を申し立てる制度を使って、県による埋め立て承認撤回の効力を停止した。防衛省が申し立て、国土交通相が認める。身内同士による「工事ありき」の手法に、沖縄県や法学者は激しく反発している。
30日の衆院本会議。安倍晋三首相は「法治国家として、法律に基づき必要な法的手続きが行われたと認識しており尊重すべきだと考えている」と述べ、工事を再開させる考えを示した。
国民が行政に対する不服を申し立てる国民救済のための行政不服審査制度。政府機関の防衛省がこの制度を使って申し立て、身内である国土交通相が認めることで、移設工事に抵抗する沖縄県の埋め立て承認撤回をねじ伏せる「奇策」を首相は「法的手続き」と言い切った。共産党の志位和夫委員長は「民主主義の国で許されない」「制度の乱用」「公正な手続きとは言えない」と代表質問で厳しく指摘したが、首相は「いずれも当たらない」とかわすのみだった。
石井啓一国交相は記者会見で「国の機関であっても、一般私人と同様の立場で審査請求をなしうると解釈できる」と説明。効力停止の理由については、「工事ができない状態が継続することで、普天間飛行場周辺の危険性の除去や騒音被害の防止を早期に実現することが困難となる。日米間の信頼関係にも悪影響を及ぼしかねない」と語った。
これらは、政府がこれまで使ってきたフレーズとほぼ同じ。手続きの過程で受け取った沖縄県の意見書は一顧だにせず、防衛省の主張を「丸のみ」するものだった。
政府は2015年10月に翁長(おなが)雄志(たけし)前知事が埋め立て承認を取り消した際にも、対抗措置として同じ手法を用いた。防衛省による申し立てから国交相が効力停止を認めるまでの期間も、前回と同じ13日間。工事を急ぎたいがために、スピードのみを重視した結論ありきの決定だったことは明らかだ。
(後略)