「(記者解説)辺野古移設、問題だらけ 民意無視の政府、詳細設計なく強行 那覇総局長・伊東聖」

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以下、朝日新聞デジタル版(2019年4月8日5時0分)から。

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那覇総局長・伊東聖

 ・沖縄県民投票で7割超が辺野古埋め立てに反対したが、政府は工事を続けている

 ・埋め立て予定地には「軟弱地盤」があり、地盤改良工事が必要

 ・工事に詳細な設計がなく、総工費もわからない

 ■事業見直す考えなし

 3月25日午後、沖縄県名護市辺野古沿岸部で、新たな土砂投入が始まった。ダンプカーからログイン前の続き土砂が下ろされ、海に落とされていく。政府は米軍普天間飛行場宜野湾市)の移設に向け、埋め立てを着々と進めている。

 新たに土砂投入が始まったのは、米軍キャンプ・シュワブの南西側の約33ヘクタールの区域。昨年12月に始めた隣の約6・3ヘクタールの区域と合わせると、埋め立て予定地の約4分の1にあたる。来夏までに陸地化する方針だ。

 沖縄では2月24日に、県民投票が実施された。辺野古の埋め立ての是非を問うもので、投票率は52・48%。「反対」が有効投票の72・15%にあたる43万超の票を集めた。昨年9月の知事選で、玉城デニー氏が獲得した知事選史上最多の39万票を上回った。

 知事選や国政選挙で「辺野古反対」を掲げた候補が勝っても、安倍政権は沖縄の民意と認めないできた。ならば「ワンイシュー」(一つの論点)で、明確な民意を示そうと、住民の署名活動から実現した県民投票。だが、政府は「反対」の民意が示された翌日も、工事を続けた。岩屋毅防衛相は「あらかじめ事業の継続は決めていた」と述べ、県民投票の結果がどのようになっても、工事を見直す考えはなかったことを明かした。

 ■杭7万本超の難工事

 政府が辺野古で進めているのは、どんな工事なのか。

 宜野湾市の街の真ん中にある普天間飛行場を名護市辺野古に移す計画で、米軍キャンプ・シュワブ沿岸部を約160ヘクタール(東京ディズニーランド3個分以上)埋め立てて、陸地部分と合わせた約205ヘクタールの敷地にV字形の滑走路を備えた飛行場を造る。埋め立てに使う土砂は、東京ドーム16・6杯分の約2062万立方メートルで、九州や四国からも持ってくる。

 ただ、それだけで済まない状況が判明した。

 ほとんど工事が始まっていない北東側には、水深の深い大浦湾が広がる。この地盤が「マヨネーズ並み」とも言われるほど、軟らかいことが明らかになった。工事を続けるには地盤改良が必要で、大浦湾側の埋め立て予定区域の約6割にあたる65・4ヘクタールに、砂の杭約7万7千本を打ち込む。このために、さらに東京ドーム約5・25杯分の約651万立方メートルの砂が必要になる。沖縄県内の砂利採取量の数年分にあたる量だ。

 この地盤改良工事について、岩屋防衛相は「以前からある一般的な工法で軟弱地盤を克服し、安定的に施工ができると確認をしている」と説明する。防衛省の資料では、羽田空港の再拡張事業では、約129ヘクタールに約25万本の杭を打ち込んだ。

 だが、深さが異なる。羽田は40メートル前後だったが、大浦湾は水深30メートルの海の下に、深さ60メートルにわたって軟弱な地盤があるとされる。岩屋防衛相は「70メートルより深い所は、硬い粘土層があると確認されている」と主張している。

 これに対し、地盤工学が専門の鎌尾彰司・日本大准教授は「土は深くなるほど重みで硬くなるが、データを見る限り、別の層といえるほどの硬さではないのでは」と指摘する。地盤改良工事では砂の杭を船から打ち込むことになるが、国内にある船が作業できるのは、深さ70メートルまで。残る20メートルの深さを改良しないと地盤沈下する恐れがあり、対策が必要になるという。

 ■総工費も工期も不明

 そもそも工事を具体的に進めるための「実施設計」が一部出ていない。軟弱地盤の問題もあり、どんな材料で、どんな工事をするかが決まっていないということだ。岩屋防衛相も「詳細な設計を一日も早く終わらせたい」と認めている。

 全額を日本政府が負担する公共工事にもかかわらず、総工費もわかっていない。2013年の当初計画では約2310億円だったが、14年に約2405億円に増えた。これに地盤改良工事の費用も加わるため、予定を大幅に超えることは間違いない。

 鎌尾准教授は「実施設計がないなんて、普通の土木工事ではあり得ない。大量の砂の確保も含め、相当難しい工事。費用もわからないまま進めることは、通常は考えられない」と話す。

 工期については、防衛省は地盤改良工事が3年8カ月かかると想定しており、完成には最低11年8カ月はかかる計算になる。ただ、地盤改良工事をするには沖縄県知事の承認が必要。玉城知事は認めない考えで、完成までの期間がさらに長期化するのは必至だ。

 サンゴの問題もある。防衛省が「移植対象」としているサンゴは、約7万4千群体ある。防衛省はこれまでに約4万群体の特別採捕を申請したが、県は許可しなかった。

 普天間飛行場は、世界一危険な米軍基地とも言われる。04年には隣接する沖縄国際大にヘリが墜落。17年には小学校の校庭に、重さ約8キロのヘリの窓が落ちる事故があった。政府は「普天間飛行場の危険性を除去しないといけない」と繰り返すが、辺野古移設を進めるならば、この危険な状態が十数年は「放置」されることになる。

 沖縄県民の多くは「すべての米軍基地を今すぐ撤去しろ」と言っているわけではない。巨大な嘉手納基地をはじめ、国土の0・6%の沖縄に70%の米軍専用施設がある。「これ以上、沖縄に新たな基地はいらない」というのが、県民投票で示された民意だ。

 玉城知事は繰り返し、解決策を模索するための対話の場を求めている。辺野古移設の先が見通せない今、政府はまずはいったん工事を止め、「辺野古が唯一」という考えを横に置いて、知恵を出し合う場を設けてはどうか。