「黒人の表記、「Black」に 米で拡大、敬意示す意味」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2020年7月7日 21時00分)から。

 

 黒人を指す英語の「ブラック」について、1文字目を小文字のblackではなく、大文字のBlackとする動きが米メディアで広がっている。白人警官が黒人男性を死なせた事件を機に米国で広がる人種差別を見直す動きの一環で、黒人を歴史や文化を共有するグループと認め、敬意を示す意味がある。
 AP通信は6月19日、「人種や民族、文化的意味合いで用いる場合、大文字のBlackを使う」という用語指針を発表した。「黒人と自認する人たちの間での、歴史やアイデンティティー、コミュニティーについての重要で共通の意識を伝えるため」とし、2年以上議論してきたとも明かした。
 大文字を使う動きは、今年5月に黒人男性がミネソタ州で亡くなってから加速した。全国紙のUSAトゥデーは系列の地方紙約260紙とともに、大文字を使うと発表。多くのメディアに記事を配信し、米国で広く使われる用語手引も発行するAP通信が続いたことで、さらに大きな影響があると見られている。ニューヨーク・タイムズも6月30日、大文字にすることを決めた。


大文字に、どんな意味がある?
 小文字から大文字に変わると、どのような違いがあるのか。2014年にニューヨーク・タイムズへの寄稿で大文字使用を訴えたテンプル大のロリ・サープス准教授は、「単純な変更だが、大きな意義がある」とする。小文字だと「黒色」を意味する形容詞だが、大文字なら固有名詞となるためだ。
 「黒人はアフリカから奴隷として強制的に米国に連れてこられ、ルーツを断ち切られた。その代わり、この地で言語や料理、ファッションなど新しい文化を育んだ」と語るサープス氏は、大文字にすることで、こうした文化を認める意味があるという。「事件後、気づかない間に人種差別や不平等に寄与するようなことをしていないか、見つめ直す動きが社会全体で起きている」と評価した。
 大文字での表記を求める声は長くあった。社会学者で黒人解放運動家のデュボイスは19世紀末、黒人を指す言葉として当時一般的に使われていた「ニグロ(negro)」の表記で大文字のNを使うよう求め、一部の新聞社などで採用された。
 公民権運動を通じて「ニグロ」には差別的意味合いがあるとの考えが強まり、黒人であることへの誇りも込めて「ブラック」が使われるようになった。だが、主流メディアの多くは小文字を使い続けた。
 最近になっても変更が進まなかった背景には、黒人の中にも様々な出自があり、ひとくくりに出来ないといった考えがある。ニューヨーク・タイムズは今回の変更にあたって、100人以上のスタッフの意見を聞いたという。同紙のバケー編集主幹はインタビューで「大文字にすべきではない、という若い黒人の記者もいた」と明かしている。
 米国では「アフリカ系米国人(African American)」という表記も使われる。肌の色と関係なく、アフリカに由来することを重視する立場で、80年代ごろから広まった。ただ、米国ではカリブ諸国などから移住した黒人も増え、必ずしも「アフリカ系」と自認していない人もいる。黒人の間でも、どちらを好むかは二分されており、AP通信は「同義語ではない」としている。


白人も「White」?
 一方、黒人を大文字にするなら、白人(white)のWも大文字にすべきだ、という声もある。全米黒人ジャーナリスト協会は「白人も含め、人種について描写するときは大文字にすべきだ」と理解を示す。しかし、シンクタンクブルッキングス研究所」のデビッド・ランハム都市政策部門広報主任は「白人の場合、ルーツのある国がはっきりし、イタリア系、ドイツ系などのアイデンティティーを持っている場合が多い。黒人とは分けて考えるべきだ」と反論する。
 実際、世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」の2月の調査によると、人種が自らのアイデンティティーに与えた影響について「極めて重要」または「非常に重要」と答える黒人は74%に上ったのに対し、白人は計15%にとどまった。
 白人至上主義グループがWを大文字にするよう求めているため、同調すべきではないという指摘もある。ニューヨーク・タイムズは「Wを大文字にすべきだという広範な議論はなく、白人が文化や歴史を共有しているといいにくい」とした上で、「白人至上主義者が大文字を好んでいることも、避ける理由になる」と説明。AP通信はWを大文字にするかどうか近く決める、としている。(ニューヨーク=鵜飼啓)


出自を書き分けるケースも
 「Black」と「black」のニュアンスの違いを日本語で表現するのは難しい。米国に住む黒人は、どのように表現することが適切なのか。
 黒人文化に詳しい、ニューヨーク在住のライターの堂本かおるさんは「言葉を使い分けているが、『黒人』とすることが多い」と話す。出身などの違いはあっても、共有する文化や経験があるためだ。「黒人男性が警官に問答無用で射殺される事件が起きるが、黒人として被害を受けている」と指摘する。
 一方、個人の出自を説明する場合は、細かく書き分けることもあるという。最近米国に移住した人たちの場合は出身国のアイデンティティーを持っていることも多く、必要に応じて「セネガル系」「ハイチ系」などと明記しているという。