以下、朝日新聞デジタル版(2020/10/6 5:00)から。
日本学術会議が推薦した会員候補6人が任命されなかった問題で、会議が前回2017年の交代会員の正式な推薦候補105人を決める前に、それより多い候補の名簿を示すよう安倍政権時代の首相官邸が求め、会議が応じていたことが5日、わかった。複数の学術会議元幹部が証言し、官邸幹部も認めた。
日本学術会議法は、会員は学術会議の「推薦に基づいて」首相が任命すると規定。210人の半数が3年に1度、10月に交代する。
会議元幹部によると、14年秋の交代人事では官邸側に事前に選考方法や日程を説明はしたが、名簿提示は求められなかった。一方、17年秋は会議が推薦した105人がそのまま安倍晋三首相に任命されたものの、その前の選考過程に官邸が関与していたことになる。
会員人事を巡っては、16年夏の補充人事の過程で官邸が難色を示し、3人が欠員する事態となった。複数の会議元幹部によると、同年12月ごろ、当時の大西隆会長(東大名誉教授)が官邸で杉田和博官房副長官と面会し、翌年の会員交代について、推薦候補を決める前の段階で選考状況を説明するよう求められた。協議の結果、選考の最終段階で候補に残る数人を加えた110人超の名簿を示すことで合意したという。
翌17年6月末、大西氏と事務局職員は官邸を訪れ、合意通りに110人超の名簿を杉田氏に示し、選考状況を説明。官邸側から意見は出たが、最終的に会議が希望する105人の推薦が7月末の臨時総会で決まり、10月に全員が安倍首相に任命された。官邸幹部は、事前の名簿提示を求めた理由を「こちらが判断する余地がないのはおかしい。ある程度、任命権者と事前調整するのは当たり前だ」と説明した。
会議元幹部の一人は「首相の任命権が有名無実化しないよう、105人が固まる少し前の段階で説明を受け、自分たちが納得して決まる形をとりたかったのだろう」とみる。別の元幹部は「協議すること自体がおかしいと思っていた。16年の補充人事以来、官邸はだんだん強硬になった。あの時に表に出すべきだった」と語った。
大西氏は、選考段階での官邸への説明について「人事案件の選考過程を官邸に説明すること自体が不適切という考えもあるかもしれないが、日本学術会議は政府機関でもある。任命者の求めに応じた説明は必要と考えた」と振り返った。一方、今回、6人が任命されなかったことについては「遺憾だ。学術会議の会員は優れた研究業績を基準に選ばれるため、思想信条、政治的な立場は考慮しない。政府は思想信条などの多様性を認めるべきで、6人を任命しない理由はあるのだろうか」と語った。(宮崎亮)
日本学術会議の会員任命をめぐる経過
●1983年 首相の任命権を「形式的な任命」とする国会答弁●2004年 日本学術会議法の改正で会議が会員候補を推薦する現行のしくみに
●16年 欠員補充人事の正式な推薦決定前の選考過程で、会議が示した候補者案の一部に首相官邸が難色。会議は欠員補充を見送り
●17年 半数(105人)の交代にあたり、官邸の要請で、会議は105人の推薦候補者に、最終選考まで残った数人を加え、計110人超の名簿を提示。結果的に、会議の希望した105人が全員任命される
●18年 内閣府と内閣法制局で協議し、「(法)解釈を明確化」
●20年 8月末に会議が内閣府に105人の推薦人名簿を提出。9月末、政府がこのうち6人を除く99人を任命する文書を決裁
※関係者への取材や、野党ヒアリングへの政府説明などに基づく