「本命だった処理水の海洋放出 タンク満杯までの時間稼ぎ」

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以下、朝日新聞デジタル版(2021/4/13 18:1)から。

 東京電力福島第一原発から出た汚染水を処理した水の海洋放出は、当初から本命視されていた。だが、国と東電は事故から10年間、処分方針への態度をあいまいにし、決断を先延ばしし続けてきた。増設を繰り返してきたタンクの満杯という「時間切れ」が2022年秋以降に迫るなか、追い詰められるように方針決定に傾いた。

 「処理水の処分は避けて通れない、いつまでも先送りできない課題だと認識している」。菅義偉首相は今月11日、国会で強調した。

 問題の始まりは、事故直後の11年4月だった。高濃度の汚染水が海に流出しているのが発覚。この時東電は、高濃度の汚染水をためる場所を確保するため、より濃度の低い汚染水を意図的に海へ放出した。連絡の不備もあり、地元や海外から猛反発を受けた。

 13年には、タンクや地下貯水槽にためていた高濃度汚染水が漏れる事故が相次ぎ、再び不安が広がった。田中俊一・原子力規制委員長が「(処理して)海洋放出も検討されるべきだ」と発言するなど政府内からも声が上がり、当時の安倍晋三首相は「喫緊の課題」として対策に乗り出した。

 だが、そこからが長かった。

 地下水が建屋に入る前にくみ上げたり、建屋周囲の土壌を凍らせる「凍土壁」をつくったりして汚染水が増えるまでの時間を稼ぎ、自転車操業でタンクを増やして貯蔵を続けた。国や東電は、処分方針を聴かれても「まずはしっかりと浄化処理をして保管する」と繰り返した。

 一方、経済産業省は13年、作業部会を設置して処分法の技術的な検討を開始。海か大気中への放出、地層注入など5案を示したうえで、海洋放出が「最も短期間で安い」などと結論づけた。16年からは、風評被害対策なども踏まえて別の小委員会で5案を再検討した。

 3年あまり議論を重ねたものの、海洋放出を有力視する見方は変えなかった。

「結論はわかりきっているのに」
 「科学的な安全性の話は作業部会で終わっているのに『安全だから問題ない』との議論に終始し、本来、小委が検討するべき社会的影響や具体的対策の議論は不十分なまま終わった」。小委の委員も務めた、東京大の関谷直也准教授(災害情報論)はそう悔やむ。

 小委の結論後も「形式上の関係者の意見を聴く会が設けられただけで、周知、風評被害対策の具体化や情報発信は進んでいない」。

 過去の検討の経緯を知る官僚OBは「結論はわかりきっているのに、経産省はその場しのぎでずるいと思った」と振り返る。

 この間もタンクは増え続けた。今年2月に福島県宮城県で最大震度6強を観測した地震では、計53基のタンクが最大19センチずれ、配管がゆがんだ。老朽化が進めば、タンクが倒壊したり、水が大量に流出したりするリスクも懸念された。

 建設や管理などに労力や費用がとられたタンクでの保管。既定路線の海洋放出が決定されたのは、敷地の空きスペースが逼迫(ひっぱく)し、廃炉作業への支障すら懸念されてからだった。(小坪遊、藤波優)