David Byrneの"American Utopia"。
この9月からセイントジェームズ劇場(St. James Theatre)で再演が決まったというニュースが流れていた。
2年ほど前の2019年10月から2020年2月16日にかけておこなわれたハドソン劇場でのショーは、Spike Lee監督によって映画化され、2020年10月17日にHBOとHBO Maxでリリースされ、日本においては今劇場で上映中だ。
スパイク・リー監督とデビッド・バーンのインタビューをYouTubeで観ることができる。映画づくりのいきさつを聞くことができる。
Spike Lee監督は、映画化にあたって、「アメリカンユートピア」は、ショーとして完結していたから、それほどの苦労ではなかったと言いながらも、ショーは何回も観た、最低でも7回は観たと言っていた。
ショーの中での問題作は "Hell You Talmbout"だろう。
映画のMCでも少し触れていたが、2017年1月20日に、トランプ前大統領の就任式があり、その翌日の女性デモ集会(Women's March)で、ジャネール・モネイ(Janelle Monae)とWondalandによるプロテストソングであり鎮魂歌である "Hell You Talmbout"を耳にして、デビッド・バーンはこれをショーで使ってもよいかと電話で尋ねた。
タイトルの'talmbout' は 'talking about'の収縮形で、"what the hell are you talking about?"(一体全体何を言っちゃってるんだ)の意。歌われる名前のリストは、人種的暴力などで死に至らされたアフリカ系アメリカ人のリストになっていてパワフルなプロテストソングになっている。このことはすでに紹介した。
インタビューを聞いていて印象的だったのは、警察による黒人に対する暴力がブロードウェイのショーがおこなわれている最中にも事件が続いていたということだ。スパイク・リー監督は何度か楽屋を訪れ、デビッド・バーンに事件が続いていると話していたという。さらに印象的だったことは、最終回の上演が終わっても、暴力事件は継続し、「止むことはなかった」 ”It never stopped. ”(Spike Lee)とスパイク・リー監督が言っていたことだ。
デビッドバーンの「アメリカンユートピア」のショーが終了したのが、昨年(2020年)の2月16日。
その後、Armaud Arbery (2020年2月23日)事件、Breonna Taylor 事件(2020年3月13日)。そして犠牲者の名前として最も記憶に残っているであろうジョージ・フロイド(George Floyd)事件が起きている(2020年5月25日)。
ブロードウェイショーの "Hell You Talmbout"の演奏中、ジョージ・フロイドの名前が連呼されることはなかった。映画を観た際に、ジョージ・フロイド事件の扱いが追加の扱いのような印象をもったのだが、それは当然のことだった。ショーの時点では、まだジョージ・フロイド事件は起こっていなかったのだから。
いうまでもなく映画製作は文化活動だが、暴力事件が止むことがなかったために、映画製作としても手を加え続けなければならなかったのだろう。スパイク・リー監督は、被害者の家族にも接近し、家族の写真を映画に加えたとインタビューで言っていた。これはスパイク・リー監督による、映画だけの演出にちがいない。
いろいろな人たちの共同の力が結集されてあの映画が生まれたことは間違いのないところだ。
インタビューを聞いて、本質をとらえた、あらためてパワフルな映画だと思った。