「笑いで菅首相を斬る あす公開「パンケーキを毒見する」 河村光庸プロデューサーに聞く」

以下、東京新聞(2021年7月29日 07時19分)より。

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 「新聞記者」(二〇一九年)など権力への批判をいとわない映画作りが真骨頂の河村光庸(みつのぶ)プロデューサー(71)が放つ新作は、三十日公開の「パンケーキを毒見する」(内山雄人監督)。現役首相の“素顔”に迫り、冷ややかに皮肉たっぷりに笑い飛ばす。今回も忖度(そんたく)なしに真っ向から立ち向かう仕掛け人は「衆院選前のこの時期にどうしてもやりたかった」と力説する。 (藤原哲也)

 与野党の国会議員や元官僚、菅義偉首相をよく知るジャーナリストらが登場し、首相の政治手法や人物像を証言する。合間にはブラックユーモアや風刺の効いたアニメを多用。国会答弁の映像も引用し、首相の不誠実に見える答弁の意図を探っていく。「単なる批判だけでなく、社会全体の問題としてとらえるため見やすさにこだわった」と狙いを強調する。
 「新聞記者」製作時から菅氏の権力者としての側面に注目していたため、政権発足と同時に準備にかかったが、監督の人選から難航。「五人ぐらいに断られた」が、結局番組制作会社で活躍する旧知の内山監督に決まった。その後も首相周辺の国会議員や評論家らにもことごとく取材拒否され、本格始動は年明けから。

 菅政治の本質を「官僚支配、マスコミ支配、国民の分断化。国民のための政治ではなく権力者のための政治になっている」と断言。テレビでは絶対できない表現にこだわり、首相の政治手法を「ばくち打ち」に見立てるなど切れ味鋭いユーモアが盛り込まれていった。「政治の陳腐化と同時に、最後は日本の衰えについても触れた。知らない人にはショックな内容だし、今回は特に若い人に見てほしい」
 今作を巡っては六月、作品の公式ツイッターアカウントが一時凍結される騒動があった。河村プロデューサーによると、解除直後にスパム(迷惑)アカウントの誤認識の可能性がある趣旨のメールが届いたものの、経緯に不信感を持ったため、ツイッター社に内容証明郵便を送って見解を求めてきた。「いまだに回答はない。嫌がらせの可能性もあると思っている」
 同じ頃、自身が社長を務める「スターサンズ」製作の映画「宮本から君へ」への助成金交付を巡る日本芸術文化振興会(芸文振)との訴訟で、出演者の逮捕などを理由とした不交付の決定は違法との東京地裁の判決を勝ち取った。芸文振は控訴したが、「公益性や憲法、人権の問題を含んでおり、裁判を継続させるのは逆にいいことだと思う」と前向きにとらえる。
 これらの経緯から「権力と対峙(たいじ)する映画人」と思われがちだが、そこは明確に否定する。「批判的であることはいいと思うが、社会に対するアンチテーゼを示しながら時代を切り取るのが私の映画作り。今後も分かりやすいエンターテインメントにこだわりたい」