これまで佐高さんの本は読んだことがないが、本書のサブタイトルに、「佐高信の政経外科Ⅵ」とあるから、おそらくシリーズものなのだろう。
第1章に「ギルティ・ペアの小泉と竹中」とあり、本書のタイトルは、この第1章を中心にしてつけられたのに違いない。第2章以降は、直接本書のタイトルと関連しないコラムになっているようだ。第2章は「タレント文化人筆刀両断」、第3章「抵抗人名録」、第4章「政経外科」、第5章「風速計」、第6章「筆刀直評日記」となっている。
第1章からいくつかメモ書き的に引用してみる。
二〇〇八年秋、世界恐慌ともいうべき金融危機を惹き起こした責任を問われたアメリカの連邦準備制度理事会(FRB)前議長、グリーンスパンは、
「規制緩和や自由競争を推し進めたことについて一部に誤りがあった」
と謝罪した。
これは議会での発言だが、日本では”ギルティ・ペア”の小泉純一郎と竹中平蔵を国会に呼んで、その罪を問おうなどとは考えもしない。
だから、この二人は謝るどころか居直って、「改革」が足りなかったのだなどと叫んでいる。
女子プロレスに、”ビューティ・ペア”と呼ばれるコンビがいた。それをもじって言えば、小泉と竹中は日本および日本経済をメチャクチャにした。”ギルティ・ペア”、つまり重罪コンビである。
私(引用者注=佐高信)は、個人の購買力を重視し、護憲の旗を掲げて、憲法九条と二五条を関連させて考える経済論の系譜として、城山三郎、内橋克人、そして私を挙げ、憲法なんか知らないよ、個人の購買力より会社の業績だと主張するバブル派の系譜として、長谷川慶太郎、堺屋太一、そして竹中平蔵の流れがあると指摘してきたが、とくに竹中はすべての事象を黒字赤字で考える非常に狭い(というよりセコイ)経済学を流行させ、公共という概念を殺してしまった。
二〇〇五年秋、いわゆる郵政選挙で、日本テレビに駆けつけた小泉純一郎は、キャスターの小栗泉が郵政民営化法案の冊子を掲げながら、
「小泉総理はもちろんお読みになっていると思いますが」
と水を向けた瞬間、
「そんなの全部読めるわけないじゃないか。だいたい政治家でそんなもん全部読んでる人なんていませんよ」
と言い捨てた。
あまりと言えばあまりな暴言だが、堂々としていたのでスタジオは静まりかえった後、他の党首も二の句が継げぬまま、次の話題に移ってしまったという。
これが”目玉”といわれた「郵政改革」の正体だった。そこにつけいって「郵政民営」ならぬ「郵政米営」を進めたのが竹中である。
アメリカの郵政は国営が基本なのに、なぜ、日本には民営を迫るのかを明かす一通の手紙を、参議院の特別委員会で暴露したのは民主党の櫻井充だった。
宛名は竹中平蔵で、差出人が国務副長官をしたロバート・ゼーリック。日付は二〇〇四年一〇月四日である。
(中略)
櫻井がこれを読み上げている間、議場には驚きの声が流れ、竹中は居心地悪そうに手で顔を撫でまわしていたとか。
私は、日本マクドナルドの創業者である藤田田(でん)に取り入って同社の未公開株を取得した竹中を”マック・竹中”と命名したが、”ゼーリック・竹中”の方がふさわしいかもしれない。この手紙は、竹中の周辺にいる人間から竹中のやっていることがあまりにひどいと、洩れたものだという。
郵政民営化は結局、郵政米営化、つまり、アメリカが営むことに帰着する。三四〇兆円の郵貯・簡保資金をアメリカによる日本買占め資金にまわすことになるのである。