自分は、いわゆる洋楽、とりわけアメリカ合州国のロック音楽に興味をもっているのだが、イギリス語が大得意というわけでもないし、アメリカ合州国などの英語圏での生活が長いわけでもないので、アメリカ文化・アメリカ社会の常識など、知らないことばかりだ。したがって、大海を泳ぐ小魚のような気持ちで取り組んでいるのだが、正直はなはだ心もとない。
唄を真剣に聴いても、大波も中波も小波も、わからない。
たとえば、「津軽海峡・冬景色」(1977)という唄があるが、青森から北海道に向かう青函連絡船で、なぜ「北へ帰る人の群れは誰も無口」なのか。「無口」というコトバの意味を知ることは第一段階だが、それだけでは足りないことがわかるだろう。これはコトバの問題というより、文化的・社会的含意を受け取ることができ能力があるかという問題になる。まぁ、これを中波とすれば、また高田渡の「自衛隊に入ろう」(1969)という唄があるが、これは、コトバを理解した上で皮肉がわかるかという大波の問題になる。課題は、コトバの問題も押さえたうえで、小波・中波・大波がわかるかということになる。
そんな微弱な俺に、的確に諭してくれるのが、本書だ。
たとえば、「アメリカ」という項目に、ポール=サイモンのAmerican Tuneという唄が仕分けされている。この唄を知っている人なら、なるほどと思うことだろう。ウディ=ガスリーの This Land Is Your Land が入っている。これらは古典だろう。そして、Randy Newman の Sail Away も当然のことながら入っているが、決定曲という扱いとして仕分けされている。レコード名と発売元レコード会社も記入がある。
AMERICA
Classics
American Tune Paul Simon
"There Goes Rhymin' Simon" (Columbia)
"Live Rhymin'" (Columbia)
"Greatest Hits, Etc." (Colubia)
・
This Land Is Your Land Woody Guthrie
"Woody Guthrie" (Warner Brothers)
"Library of Congress" (Elektra)
・
Definitive Songs
Sail Away Randy Newman
"Sail Away" (Reprise)
たとえば、「世界の終末」。
APOCALYPTIC
Classics
Bad Moon Rising Creedence Clearwater Revival
"Chronicle" (Fantasy)
"Green River" (Fantasy)
・
A Hard Rain's Gonna Fall Bob Dylan
"The Freewhelin' Bob Dylan" (Columbia)
"Bangla Desh" (Apple)
たとえば、エコロジー。Joni Mitchell の Big Yellow Taxi が決定的な唄の一曲として仕分けされている。これも知っている人なら納得するはずだ。
ECOLOGY/CONSERVATION
Definitive Songs
・
Big Yellow Taxi Joni Mitchell
"Ladies of the Canyon" (Reprise)
"Miles of Aisles"(Asylum)
こんなふうにして、本書では、以下のようなコンセプトで仕分けされている。実際は細目もあってさらに細かく仕分けがされているが、ここでは細目は省略した。
America
Apocalyptic
Big Business
Brotherhood
Changes
Children
Cowboys/ Wild West
Death
Divorce
Drinking
Drugs
Ecology/ Conservation
Fathers
Freedom
Friendship
Growing Up
Hope/ Optimism
Hunger
Indians
Injustice
Life
Loneliness
Marriage
Money
Mothers
Old Age
Outcasts / Hobos
Outlaws / Criminals
Police
Politics
Poverty
Pregnancy
Prisons
Prostituion
Protest / Revolution
Racism / Prejudice
Rat Race
Religious Songs
Schools / Education Process
Self-Identity
Sexuality
Stardom
Suburbia
Suicide
Teen-Age Years / Adolescence
Urban / City Life
Violence
War and Peace
Women's Identity / Liberation
Working
Twenty Emotions and Themes of Love
コンセプトアルバムの指摘もあって、たとえば、DRUGSの箇所では、Thematic Albums として、Neil Young の"Tonight's the Night" (Reprise)とある。
ということで、本書は、ロックミュージックの海を渡る羅針盤として斜め読みしていると、時間を忘れて楽しむことができる。音楽ファンにおすすめの一冊となっている。