「アメリカ英語の常識 1地理編・上」國弘正雄(1981)を購入した

アメリカ英語の常識1地理編・上(1981)

 「アメリカ英語の常識 1地理編・上」國弘正雄(1981)を購入した。

 國弘正雄氏は本書を、東京大学教授の中島文雄博士の「英語の常識」(研究社)に触発されて書いたという。

 現在津田塾大学の学長である中島文雄先生は、戦前のイギリスに留学された経験をもち、英語学の第一人者である。中島文雄氏の著作を読んだことはないが、高校時代の英語教科書クラウン(三省堂)の編集者主幹が中島文雄先生だったし、同じく高校時代に父親が買ってくれた岩波書店の「英和大辞典」(1970)が中島文雄編であった。

 一方、世代的に少し遅れて、とりわけ戦後活躍されている國弘正雄氏にとっては、「英語との主たる接点はやはりアメリカ」ということで、「アメリカ英語の常識」というような本を書きたいと思っていたという。

 中島文雄先生が英文学と英語学を背景にして「英語の常識」を書かれた一方、國弘氏は、「全米50州のうち、46州」をまわり、行ったことのない州は、「Maine, North Dakota, South Dakota, Wyomingの4州」であり、「用例収集の対象」としては、「かげろうのごとき書き物」(ephemeral literature) から収集して本書を書くことにしたという。

 「話をアメリカにかぎって、中島先生のお仕事を方法や理念などの点において踏襲しつつ、私の独自性をもまじえ、アメリカ英語をタテヨコ十文字に切ってみたい、という思い」で、「「アメリカのすべてを語る」を目標に」執筆を思い立ったという。

 副題に「地理編・上」とあるように、「地理」から入っている*1

 以下、知っているものもあったが、本書で扱っている語句の一部を引用しておこう。

from coast to coast

from the Lakes to the Gulf

from Maine to California

Maine lobsters

sunny California

south of the border

wetback

Hispanic

Spanish-speaking (著者によれば、元来はメキシコ系アメリカ人をさすのが普通だったが、ニューヨークでは、主にプエルトリコ人を、フロリダでは手にキューバ系をさす)

north of the border

the Americas (「カナダ人も中南米人も」アメリカ人)

the Rio Grande

from Boston to San Francisco/ (all) across the United States / all over the United States

from Chapel Hill to Berkeley (州立ノースカロライナ大学からカリフォルニア大学バークリー校にいたる各大学で)

the Mason and Dixon line (メーソン・ディクソン・ライン。「奴隷制を維持した南部と、自由黒人を許した北部との境界線」)

a Border State (境界州)

the east / the East((権力機構の中核である)東部)

the Eastern seaboard ((政治・経済の中心地である東部という意味で)「東部海岸」)

the sun-belt

the frost belt

the Continental Divide (大分水嶺

on the Potmac (中央政府

Four Corners States (ユタ・コロラドアリゾナニューメキシコの四州)

the Wild West

golden West

the Rockies

Mountain States

The Rocky Mountain West

Rocky Mountain States

Ol' Man River

the Mississippi riverboats

the Midwest

the Plains States (Iowa, Kansas, Minnesota, Missouri, Nebraska, North Dakota, South Dakota の7州)

the Heartland (Illinois, Indiana, Michigan, Ohio, Wisconsinの5州)

Dixie

the Civil War

the War between the States (American Civil War/ The Civil War、南北戦争の婉曲表現。「こぜり合いを含むと6800回。南北両軍を合わせると60万を超す死傷者を出した」)

Dixie Land

the Late Unpleasantness (南北戦争の婉曲的表現)

Dixiecrat (Dixie と Democrat の portmanteau)

the Deep South (Louisianna, Mississippi, Alabama, Georgia, South Carolina の5州)

the black belt

separate-but-equal (「分離はすれども差別せず」の美名のもとで分離がおこなわれ人種差別がおこなわれた)

Southern beauty

Southern belle

Southern chivalry

"more advertising for Frolida real estate" (from John Steinbeck : "Travels with Charley" p.35)

the citrus belt  (フロリダなど柑橘帯)

"Better Dead Than Red" (アメリカの超国粋主義右翼の間ではやったスローガンで、「赤になるよりゃ死んだほうがマシ」)

going out of my cotton-pickin' mind

""cotton picking" is an old Southern expression used instead of swearing : it is more widely used today as a joking expression" (from Newsweek: Sept.16,1966 p.57)

Mississippi state

James Meredith (ミシシッピ州立大学入学事件で知られるジェームズ・メレディス黒人青年)

Ole Miss (オックスフォード市にある州立大学のあだ名)

bayou (アメリカ南部の沼地のこと。「ミシシッピ河口の水郷地帯を指すことばとしてよく使われている」)

parish (ルイジアナ州の郡。他の州はcounty。ルイジアナ州だけがparishを用いる)

Cajuns (「カナダの西北Nova Scotia にいた、フランス系カナダ人のこと」)

New Orleans gumbo/ Creole gumbo  (Creole というとルイジアナが思い出される)

antebellum (「戦前の」の意。南部で聞かれるラテン語の成句)

grits (グリッツ。粗くひいた穀物、とくにトウモロコシのおかゆ

the French Quarter (ニューオリーンズのフレンチクォーター。Rue というフランス語の道路標識がフレンチクォーターの細い道筋で観察できる)

the Crescent City

Southern hospitality

Fundamentalism

 以下の説明も参考になった。

rest stops (高速道路や幹線道路の休憩所)

smart asses (俗語で「聞いたふうな口をきく手合い」)

”Go for Broke” (第二次世界大戦中の二世部隊で知られる。「当たって砕けろ」)

Phoenix フェニックスも老人ホームが多いことで知られる

senior citizen 「老人」の意味の婉曲表現

do full justice to something  (対等平等・正当にあつかう)

 あと興味を引いたのは、クリオールのところで、Nat Hentoff の "The Jazz Age"を引用してのSidney Bechetの紹介。

 黒人霊歌のところで、Marian Anderson の紹介。

 鶴見和子・俊輔氏の亡くなられた父・鶴見祐輔氏の「北米遊説記」「欧米大陸遊記」の紹介。

 日系二世のシノダ・ミノル・ハワイ大学歴史学教授の「日本には力の許すかぎり、憲法9条だけは守って欲しい。…そうしないと歴史なんて意味がないじゃありませんか」(p.89)という語りかけの紹介。

   "The Mind of he South" by W.J.Cash など。

 著者の「「アメリカのすべてを語る」を目標に」という目標を自分も目標にしたいが、対象が厖大だから *2、なかなか大変だ。

*1:本書で國弘氏が紹介されているように、イギリスでは、"from Land's End to John o'Groat's"が、「北海道のはてから沖縄のはてまで」ということになるようだ。ロンドン市内の Harley Street や Tottenham Court Road、そして the City がどのような役割を果たしているかなんて、当然にも普通の日本人はイギリスはロンドンの常識など知らない。

*2:外国語の学習は、その文化も知らないといけなくなってしまう。本書でも「関ヶ原の戦いについてまったく不案内なアメリカ人に、天下分け目の関ヶ原、という日本語の慣用句がピンとくるはずはありません」とある。文化性獲得ににおける従属支配、言語習得における差別が生じる要因でもある。