「FENで英語をモノにする本」松本道弘(1989)を購入した。
著者は、「プロローグ」で、「FEN英語を語る前に、FENが軍事放送であることを隠すわけにはいかない」「FENの上部組織はアメリカ国防総省である。つまりDOD。そのずっと下にAFRTS(国防総省広報局)があり、FENはその管轄下にある。「FENはアメリカ合衆国である」ということだ」と書いているが、この最後の行にあは飛躍があると思う。つまり、FENは、アメリカ国防総省・国防総省広報局の管轄下にあるアメリカ合州国の軍事無線局であり、日本もふくめ海外に派遣している米軍人にたいするサービスであり、日米安保体制下の極東軍事「放送」局であるということだ。それで、ピリオドということではないだろうか。
詳しくは知らないが、沖縄・三沢・佐世保・横須賀など、それぞれの基地に勤務するアメリカ兵にたいするサービスということだ。
shadow listener としてだが、FENは英語学習として自分も聴いていたことがある。
軍事「放送」局といっても、軍事機密上そんなはずもないが、軍事機密的な話が流れるわけでもない。合州国で流れている一般的な番組も流れるし、マーチン・ルーサー・キングジュニアの記念日を祝って、ブラックスタディーズ(Black Studies)の特集が流れたりすることもある。また、各基地の兵隊にたいする催物案内。いわば娯楽案内も流れる。さらに、"Swap Shop" という各基地に限られたローカル番組があり、使用済みの日用品の売買や差し上げますといったリサイクル広報もおこなっている。スワップショップは、中古車の売買はもちろん多く、乳母車やパイプベッド、ウォーターベッド、ステレオキャビネット、子犬「差し上げます」(give away)といったものも多かった。自動車検査証のことを JCI (Japanese Compulsory Insurance)*1 というのを "Swap Shop" で学んだ。かけだし英語教師のころ、この FEN の "Swap Shop" を高校生に聞かせて、ディクテーションをさせたことがある。スワップショップでは、かならず物品(アイテム)と、売買の場合、希望価格、また申し込み先の電話番号と軍職・氏名の名前など、初心者の聴きとり「教材」としてちょうどよかったからだ。ただし、こうした「教材」を使うことが同業者の高校教師から批判されたことがあった。たしかに日本の政治状況を無批判的に礼讃することにつながるのであればそれは全く教育的とはいえない*2。いわゆる authentic な教材が身の回りに少なく、軍事「放送」まで使ってみたわけだが、MLKなどの特集も聴けたので自分なりに役に立ち*3、あくまでも数字の聴き取りなど英語学習の技術的なトレーニングに使ったつもりだったが、今思えば、リスクもあり軽率だったかもしれない。
松本道弘氏のものは、その英語学習体験談を参考にして、よく購入したけれど、著者の思想性に感心したことはなく、思想的に影響を受けたことはない。