大家族が集合する

 大学から暗い夜道をとぼとぼと歩いて帰ると、大家族が歓談の真っ最中である。アレックスもご機嫌だった。すでに書いたようにアレックスとジュディの一人息子ポールはオーストラリアのタウンズビルにいるのだけれど、マーガレット、ジョニ、クリスティーンの娘三人と、長女の連れ合いジェフ(仮名)と、次女の連れ合いトム(仮名)と、アレックスからすれば孫にあたる子どもが全部で4人来ていた。
 孫の内訳は、ワイカト大学に通い、もうすぐ卒業し、教員になろうとしている20歳の女子大生ナタリー(仮名)。それに、銀行で働いている好青年ニール(仮名)。それから昨日から顔なじみの、まだ幼い女の子ニコラと男の子のイワンだ。私は、ワインをいただきながら、ビーフステーキをごちそうになった。
 このビーフステーキは、オークランドに住んでいるクリスティーンの牧場で殺したばかりという。殺してからどれくらいが一番うまいのか聞いてみると10日位という返事が返ってきた。つけ合せは豆とじゃがいもとさつまいもだ。アレックスの長女マーガレットは教員で、その夫ジェフも教員で地理を教えている。だいぶ前に右目を怪我して、ハミルトンの病院で治療を受け続けているという。彼らは、タラナキ山の麓に住んでいる。
 タラナキ山(Mt Taranaki)は、富士山に似た美しい山だ。マーガレットが職場から持ってきたラップトップで、タラナキ山のその美しい風景を見せてもらった。私も職場から貸与されたラップトップを持ってきていたので、それで、鎌倉・浅草・渋谷など、日本の風景を見てもらった。富士山には軍事演習場があるが、「タラナキ山にはないんでしょう」と言うと、マーガレットがタラナキ山にも小さいけれど軍事演習場があるという。実に困ったものだ。
 アレックスの話はいつも面白いが、奥さんのジュディはタラナキ山の近くで生まれ育ち、アレックスもそこから遠くないところで育ったという。51年も前にタラナキ山の近くで結婚式をあげて、タラナキ山からハミルトンに向かう途中辺りのところで家をもち十数年住んでいた。この頃は、アレックスはフライフィッシングに夢中で、オートバイでよく行ったものだと言った。ハミルトンに来てからも、鱒釣りで有名なタウポ湖(Lake Taupo)、ツランギ(Turangi)で、よく釣りをしたという。ウェーダーという、水の中に入いるためのウェアを着ても、トンガリロ(Tongariro)からタウポ湖に入り込む水はとても冷たいらしい。彼が言うには、冷たくないと、いい鱒は釣れないという。今はゴルフに夢中なアレックスは、いろいろなことをよく知っているし、また話し好きだ。「コンピュータはよくわからないけどね」と彼は言ったが、私もコンピュータにけっして詳しいわけではないが、可能ならばコンピュータよりもフライフィッシングに詳しい人生を送りたいと思っている。
 私がマオリ土地戦争など、歴史に興味があることをアレックスは知っているので、今度土地戦争ゆかりの地に連れて行ってくれると約束してくれた。そう言われたから言うわけではないが、アレックスは、笑い顔の素敵な、実に好感のもてるいい人間だ。