ワイトモの博物館で土ボタルについて学ぶ

 ツアー開始までにはまだ時間があるので、博物館で洞窟について少し学んでみた。
 土ボタルは、日本語の名称ではホタルと呼ばれているが、蛍ではない。イギリス語ではglow wormと呼んでいて、いわゆるworm(虫)と呼ばれている。釣りをする人はご存知のように、ワームというのは、ミミズのような虫を指して言うのであるが、土ボタルは、こうしたワームではなくて、昆虫である。日本語では、昆虫もミミズのような奴も総称して「ムシ」というから話はややこしいのだが、glow wormは、insect、つまり昆虫なのである。
 このグローワームの生態は面白い。
 成虫によって産卵された卵から孵化した幼虫が、クモのようにねばねばした釣り糸状のものを洞窟の天井から何本もたらすのだそうだ。これに虫などがからめとられると、その捕獲した虫をグローワームが食べるのである。
 土ボタルは食欲旺盛らしく、時には共食いすることもあるらしい。グローワームの一生は大体11ヶ月ほどらしいが、この幼虫の時期が一番長いらしく、その後さなぎになって、成虫になる。成虫になってからは、数日間しか生きられず、その間に生殖してメスは卵を生んだら、たいてい死んでしまうという。オスはもう少し長生きするらしく、ガールフレンドをつくったりする期間もあるらしいが、いずれにしても、成虫になったら数日間の命しか生きられず、きわめて短命らしい。
 土ボタルが光を出すのは、餌を呼び寄せる目的と、繁殖のために異性を呼び寄せる目的とがあるらしいのだけれど、われわれが日常生活でよく知っている熱を出す光とは違って、特殊なメカニズムで光っているので、熱は放出しないという。
 この土ボタルは、オーストラリアはブリズベン郊外にあるラミントン国立公園でも私は見たことがあるので、初めて見るわけではないのだけれど、土ボタルは、じめじめした湿気を好むため、このワイトモ洞窟に大量に棲息しているということで、ワイトモ洞窟は世界的に有名になっているのである。
 洞窟の中は、外界と違って、暗く、静かで、変化の少ない環境である。ここに、昆虫や他の生物が迷い込んでくることもあるし、カルスト台地にあけられた自然のトンネルから植物の根っこなどが落ちてくることもある。つまり、静かで変化の少ない環境といっても、食物連鎖がきちんと存在していて、洞窟内の水流にはうなぎ(eel)なども生息しているという。
 先に書いたように、ワイトモ洞窟のグローワームを見たさに、年間50万人もの観光客が訪れるのである。環境が変化してしまったら、グローワームも住めなくなる。だから、環境の変化にはものすごく気を使っている。具体的には、洞窟内の温度、湿度、二酸化炭素の量、風の向きなど、常時計測しているという。もちろん洞窟の上の森林の状態などにも、気を配っているという。
 土ボタルは、重要な観光資産でもあるのだ。