マオリ語の音の響き

 ところで、再度マオリ語の音だが、クラ(kura)が「学校」の意味で、私には、「蔵」や「庫」に聞こえる。「川」を意味するアワ(awa)は、漢字をはめてみれば「泡」だ。watchを意味するmātakitakiは、「マータキタキ」とまさに「瞬き」のような感じ。「犬」を意味するクーリー(kurī)は、「栗」毛の、「栗」。「魚」の意味のイカ(ika)は、まさに「イカ」だ。
 「カイテペーヘアクェ」(「ご機嫌いかがですか」)という質問に対して、「カイテヒアカイ」(「おなかがすいています」)という答え方があるのだが、このヒアカイ(hiakai)のカイ(kai)は、「食べる」とか「食べ物」という意味だ。ヒアヒア(hiahia)というのは、「望む」「渇望する」という意味だから、ヒアカイで、「おなかが空いた」という意味になる。同様に、ヒアイヌ(hiainu)、ヒアモエ(hiamoe)は、イヌが「飲む」、モエが「眠る」という動詞だから、それぞれ「喉がかわいた」、「眠たい」という意味になる。ヒアヒアというのは、なんだか感じがでていると思うが、どうだろうか。
 プカプカ(pukapuka)は外来語で、bookから来ているのだろうけれど、「本」という意味だ。
 これも外来語で、post officeから来ているのだろうけれど、「郵便局」を意味するポウターペタというのは、何だかペタペタ切手を貼る感じに似ている。もちろんこれは偶然に過ぎない。
 基本的に音声に意味はないのだが、サウンドシンボリズム(sound symbolism)というのがあって、たとえば日本語でもS音は、「さらさら」「さっぱり」「すらりと」「さっと」「さっそうと」「すらすらと」と、イメージを持っていることがある。詩人とは、こうした音のシンボリズムを意識的に使う人たちのことを、ある意味で言うのだろう。
 教科書の裏表紙の語彙集には掲載されていないけれど、昨日、講師のヘミがたまたま授業中に「性交をする、ベッドをともにする、愛し合う」という意味のアイ(ai)という動詞を紹介してくれた。講師のヘミは大変真面目な教師なので、これはまさにたまたまなのだが、これこそ日本語の「愛」と、偶然の一致ともいうべきコトバではないだろうか。
 だから何だということではないのだけれど、マオリ語の音はなかなか面白い。マオリ語はそもそもは文字のない言語だったから、限られた音で人間は音声認識がどれほどできるものなのかと、考えてしまう。また母音の強い言語であるから、美しい音声言語をめざすという点では、マオリ語も日本語もお互いに学び合う素地があるのではないか、なんてことも考えてしまう。