ウエリントンはいい所らしい

 その試験問題の中には、ウエリントンなどの地名をマオリ語に直すという問題があったのだけれど、予告はされていたけれど、新語について全く準備をしなかったアンドリューが、「ウエリントンはできなかった」と言った。
 私もできなかったのだが、マオリ系の学生でもウエリントンをマオリ語でどういうのかがわからないというのが、実態なのだ。なんだアンドリューもできなかったのということで、「ハミルトンがキリキリロアだってのは、私も含めてみんな知っているけど、ちょっと新語の出題は、出題が細かすぎたんじゃないかな」と、私もそれに乗じた。
 ウエリントンはマオリ語でテファンガヌイアタラ(Te Whanganui-a-Tara)、もしくは、ポーネケ(Pōneke)という。試験の出題は前もって説明されるから、イギリス語の地名をマオリ語にするという問題が出題がされるということは聞いていたけれど、試験勉強として正直いって私はウエリントンまではカバーできない。
 ところで、講師のヘミに言わせると、オークランドは、ポリネシア系、アジア系が多いけど、ウエリントンはそれとも雰囲気がちょっと違うという。
 講師のヘミによると、ウエリントンはいい街で、オークランドよりはずっと好きだという。1チャンネルを見ていると、重要な問題のときに解説をする解説者や、小説書きの受賞者がインタビューに出るときなどは、ほとんどと言っていいほど、ウエリントン発の情報が多い。それほど、ウエリントンは、政治的・文化的に重要で、中心地なのである。まさにそれが首都たる所以なのだろう。
 ヘミは、うまいうまいと言いながら、寿司をパクパク食べてくれるので、見ていて気持ちがいい。
 デザートのパイナップルと合わせたアイスクリームなども、おかわりもした。
 料理をする人はわかると思うけれど、作った人はあまり食欲がわかないものだ。だから客人がうまいうまいと食べてくれるだけで、嬉しくなる。
 たまたま私の持っている日本の写真を見ていたメンターのジョンは、横断歩道のところに表記されている自転車のロゴを見て、「これは何」と私に聞いた。見ると、歩行者が通る横断歩道の横に自転車が横断するための白線と表記がしてある。「ああ、これはね、自動車道路を横断するときに、歩行者がここを通るでしょ。そして自転車がその横を通って横断することになっているの」と説明すると、余程おかしかったみたいで、他のマオリ系学生に、「これおかしいね」と伝えている。
 日本のサイズは何でも小さいから、ニュージーランドのサイズからすると、たしかに可笑しい。
 ニュージーランドでは、自転車も自動車と同じように、ヘルメットをかぶってガンガン走っているから、余程おかしい風景だったようだ。いつまでも笑っている。
 応用言語学など、身近にマオリ語という比較すべき対象となる異言語があるのに、多少は取り上げられることはもちろんあるものの、英語の母語話者で、あまり本格的に学んでいる人は少ないような印象を私は持っているから、何故、白人はマオリ語に興味がないのか講師のヘミに聞いてみた。
 ヘミによれば、それはやはり、マオリ語が、外で通用しないからではないかという。マオリ語を学ぼうとしないというのは、案外意識として深いものがあるんじゃないかとも続けた。
 マオリ語と英語の間にある溝は、深そうだと私は思った。
 パーティもお開きとなり、トヨタのハイラックスに乗っている講師のヘミは、家畜も運べるし、野山に行けるから、ハイラックスが便利で気に入っていると言っていたが、もう一台買うかもしれないから、私の愛車を売るときには連絡してくれと帰り際に言っていた。
 10人くらいのパーティーになるはずだったのだが、デビッドやジュピター、チューター講師のフレッドも来ると言っていたのだけれど、結局来なかった。
 せっかく仕込んだ炊き込みご飯も作らずじまいだ。
 人数のよくわからないパーティーのホストというものは疲れるものだけど、講師のヘミとメンターのジョンに救われた。彼らは本当にいい奴らだ。
 これからも連絡を取り合おうということで彼らと別れた。