私の下手くそなマオリ語の口頭発表が終わる

 教室内には、すでに助手のフレッドが来ている。生徒はマオリのジャッキーだけだ。
 ジャッキーが「覚えた」と聞いたので、「なんとかね」と答えるが、実はもう言えるのかどうか確信がなくなってきている。
 私がスクリプトを取り出してながめていると、「ちょっと見せて」と言って、ジャッキーは私のスクリプトを取り上げた。彼女のマオリ語は流暢だと私は思うが、その彼女が私のスクリプトを見て、随分長いわねというような顔をした。
 「試してあげるから、やってみて」とジャッキーが私のスクリプトを持ちながら言うので、私がポツポツと喋り出すと、白人の女子学生のエリザベスが来た。マオリ語のレベルとしては、彼女が私に一番近いだろう。もちろん、私の方が下の可能性があるのだが。
 発表時間の11時ちかくに、ジュピターや、アリス、マーカと、あと数名がどっとやってきた。
 ジュピターは私を呼んで、準備万端かいという意味のサムアップをして私の状況を尋ねた。「拷問部屋(torture chamber)にいる気分だよ」と私は答えた。これは私の本音だ。
 アリスはあとから来たのに、誰も先にやらないならと、一番のりで発表した。さすが彼女らしい。途中多少つっかえて考えたりはしたものの、やはり彼女の頭の回転は早い。母語話者でないのに、スピード感、流暢さがある。
 次にジュピターが発表する。今回の彼の発表は、カラキア(お祈り)から始まって、なんだかやたらと長い。ジュピターはいつもボソボソと喋るものだから、大部分よくわからなかった。私のリスニングの力なんて、本当にまだまだだ。
 次にジャッキーが発表した。彼女のマオリ語は流暢だ。こうして聞いてみると、やはりマオリの学生はマオリ語の文化的背景をしっかり持っていることは間違いない。
 そして、助手のフレッドが、いよいよ私を指名した。
 忘れることを恐れない私のメソッドは、覚えたという意識がないものだから、発表前は一体全体マオリ語なんて口から出てくるのかという心境になるのだが、「今日は、フレッド。今日は、みなさん。これから私の課題についてお話しします。昨年わたしは、、、」と切り出すと、ポツポツながら、なんとか最後まで終えることができた。練習として何回も言い切っているので、あがらない限り言えて当然なのだけれども。スピード感はないものの、やはり私なりの発表スタイルといえるものだ。はっきりいって下手くそな私のマオリ語だけど、自分で言うのも変だが、まぁよくやっている方じゃないか。
 助手のフレッドとマーカに、今朝もぎとったオレンジをおすそ分けして、気分的に解放されて私は教室を出た。