ICレコーダーを活用して口頭発表課題をなんとか覚える

 夕ご飯のあとで、集中して課題を覚えようとしたのだけれど、あまりに長くて覚えられない。私が覚えないといけないシナリオは以下のようなものだ。
 
 今日は、フレッド。今日は、みなさん。
 これから私の課題についてお話しします。
 昨年は、わたしは日本で働いていまして、生徒たちと一緒でした。私の生徒たちはスポーツをすることがとても得意です。彼らは学校に三年間通うことになります。私はその学校でイギリス語を教えていました。教師としての私と45人の生徒たちです。とても充実した仕事でした。
 今年は、ワイカト大学(The University of Waikato)に来ていまして、三つのペーパーを取っています。
 文・社会科学部に私は所属しています。
 第一のペーパーとして、言語学。ジョージが担当教員です。このペーパーには生徒15人がいます。
 第二のペーパーとして、コンピュータ。キャサリンが担当教員です。このペーパーには、10人の生徒がいます。
 第三のペーパーは、マオリ語です。ヘミが担当教員で、フレッドが助手です。
 ワイカト大学での勉強が終わったら、日本に帰ってまた仕事をします。
 以上です。どうもありがとうございました。


 このシナリオは、奥さんがマオリ語の母語話者で1歳の子どもがいるクラスメートのマオリのデビッドからアイデアをいただき、マオリのメンターのジョンに仕上げをしてもらって、そのジョンにタイピングとプリントアウトまでしてもらった原稿である。だから原稿として完成度はまずまずなのだけれど、なかなか覚えられない。そもそもが自分で書いたものでないから、自分では語彙も文法もままならない。
 それで、全く頭に入りそうにないので、日本から持参したオリンパスのVoice-Trek DM-30を取り出して、スクリプトを自分で音読し録音してみることにした。
 こいつは256MB内蔵のICレコーダーで、長時間モードなら内蔵メモリーだけで約89時間40分録音できる。もちろんパソコンにデータを落とすこともできる。本来は母語話者に音読してもらって録音できれば一番いいのだろうけれど、時間がない。
 音読は、「通し読み」「分割読み」「繰り返し読み」「語彙だけの繰り返し読み」と、語彙と文法が定着するように録音してみた。こうして30分ほどのデータをつくった。
 夕飯をつくらないといけないので、手巻き寿司をつくりながら、録音した奴を聞いてみた。公私ともに忙しい暮らしに慣れてしまった私は、これまで、ながら勉強ばかりやってきたので、ながらの方が落ち着いて勉強できるという妙な習慣をつけてしまったようだ。
 食事後、今度はICレコーダーで自分の音読を聞きながら、聞き書き取り、いわゆるディクテーション(Dictation)をやってみた。こうすると、なかなか覚えられない語彙と文法が明確になる。同時に、聞いて意味のわかる表現が自分のものになる。つまり、言えるようになる。覚えようとしなくても頭に入って言えるようになるのだ*1
 それで、今度は、弱点のある語彙と文法だけを集中的にやってみる。私は丸暗記が大の苦手で、意味のわからないものは覚えられないので、自分が弱点を抱える表現について、なんとか自力で辞書で調べてみる。たとえば何度やってもカイ アーフィナ(「助手」)という単語が定着しないのだが、辞書で調べてみると、この前書いた「意味の最小単位」、モーフィーム(morpheme)がわかって、カイ アーフィナ(kaiāwhina)という単語がなんとか覚えられるようになる。というのも、kai-は「動詞」につく接頭辞で、「人」をあらわすと書いてあるからだ。āwhinaは動詞で、アシストやヘルプの意味だから、カイ アーフィナは「助ける人」という意味になる。つまり「助手」だ。こうすると私の記憶の引き出しになんとか入ってくれる。私のスピーチのキーワードのひとつ、カイアコ(「教師」)もこのカイが使われている。カイアコ(kaiako)のakoはto learn、to teachの意味だから、カイアコで「教師」という意味になる。辞書を引くと、こうしたことがわかって楽しい。そして、憶えられるというか、自分のものになる。
 自分が音読したものは単なる音声だ。とくに私のような初歩の段階では意味が頭にすんなりと入ってこない段階だから、なおさら無意味な音声でしかない。それでも、語彙と文法が習得できている文ならば、すっと意味がわかる。
 実はこのスクリプトには、「この文・社会科学部で二つのペーパーを取っています」とか、「このペーパーでは、通常クラスはなく、コンピュータで会話をしています」とか、「マオリ・太平洋発展学部で」とか、他にも気のきいた表現があったのだが、語彙も文法も理解できないし、覚えられないので、思い切って削除してしまった。
 それで、昨日は、全体を理解できた時点で、さっさと寝てしまった。発表は次の日の午前11時。早起きして覚えればなんとかなるだろうという計算だ。
 それで今朝は、5時に眼が覚めた。いよいよスクリプトを覚える段階になる。
 自分だけで発話してみて、スクリプトで確認する。さらに自分で言ってみて、スクリプトで確認する。こうした作業を継続して、なんとか全体を覚えられたのは、今朝の8時30分だ。
 ただし、朝の5時から8時30分まで、私は朝風呂に入り、ケーシーに餌をやり、朝飯を食べ、庭に落ちているオレンジをコーンポストに片付け、さらにおいしそうなオレンジを木からもぎ取り、洗濯をして、洗濯物を干し、コーヒーを飲み、日本茶を飲み、紅茶を飲んだのだが、その合間になんとかスクリプトを覚えるようにしたのだった。丸暗記の嫌いな私は、ずっと集中を継続して覚えることができない。休憩時間を置かないと集中力が続かないのだ。
 最後は、スクリプトなしで発表しなければいけない。ひとつの文章くらいすっ飛ばしても、自力でやるしかない。
 だから、無理して覚えようとせず、インターバルを置いて何度もやってみて、定着することを期待するしかない。かっこよく言えば、忘れることを恐れず、潜在意識を活性化するやり方だ。時間的な間隔、休憩時間を置くことを重視し、忘れたら、また覚えるという方法である。コトバの練習は繰り返しが大切で、繰り返しの中で、コトバが残っていくだろうというアプローチである。
 私はよく言うのだが、コトバの勉強における、語彙学習は友人関係と同じである。親友や悪友を無理して覚えている奴はいない。繰り返し会っている奴は、忘れようったって忘れることができない。つまり、回数多く会うことが大事なのだ。覚えることが大事なのではない。数年に一回くらいしか会わない奴は、記憶から消えて当然である。去るものは追わずの精神はコトバの学習の基本だと、私は考えている。今回のように多少は無理して覚える場合でも、なるべく不自然に無理に覚えようとせず、「聞く」でも「読む」でも、「書く」でも「話す」でも、繰り返すことを重視すべきと考えているのだ。
 私の発表は、時間にして数分間である。だから準備の最終段階は、30分でも結構な練習ができる。
 こうして準備を終えて、10時20分にチュートリアルの会場に向かった。発表は11時開始で、10時40分くらいに私は教室に入った。

*1:ディクテーションは、コトバの勉強方法として、お薦めの勉強法である。大学生なら高校生のテキストの入ったテープ、高校生なら中学校のテキストの入ったテープを、テープだけ聞いてみて、自分でタイピングしてテキストをおこしてみるのだ。聞き取れなかったところは、何回聞いてもいい。正確かどうかの確かめは、実際の印刷されたテキストでやってみると、自分の力量が一目瞭然に分析できる。