皮肉屋の彼のことだからもしかすると「俺はアメリカ人に数えられているのか」と言うかもしれないが、私の好きなアメリカ人のアーティストに、ランディ=ニューマン(Randy Newman)がいる。
彼の作品のひとつひとつは、とても短い作品が多いのだが、その中で、彼の歌詞と演奏は見事にひとつの世界をつくりあげている。また、彼はいろいろなキャラクターになりすまして歌うものだから、聴いている者は彼の本当の気持ちがどこにあるのか最初はとまどうだろう。
ある時はそれが、アフリカから奴隷をアメリカに連れ込む奴隷商人だったり、北部の連中からバカにされる南部人だったり、性的倒錯者だったり、さまざまな人格に成り代わって歌うのである。
アルフレッド=ニューマンという深夜映画で古典的な映画を見たら、必ずやこの名前が音楽担当としてクレジットされていることを見かけることになると思うが、このアルフレッド=ニューマンを叔父にもち、ランディ=ニューマン自身も最近ではディズニー映画の「トーイストーリー」や「モンスターズインク」の音楽を担当して、オスカーも受賞した。こうした映画音楽の歌詞にはさすがに毒はないが、彼の歌詞には皮肉がたくさんちりばめられている。
初期の名盤”Sail Away”(1972)の「政治学」('Political Science')もそうした毒を含んだ曲のひとつである。
誰も俺のことを好いてくれない
一体全体何が悪いのかよくわからないけどね
俺たちは完璧じゃないかもしれないが
努力しているってことは神様もお見通し
でも、周囲全部、旧知の友人までが俺たちをバカにする
大きいのを一発お見舞いして
どうなるか見てやろうじゃないか
奴らに金もやっているのに
一体全体奴らは感謝しているのか
いや、奴らは悪意に満ち、憎んでいさえする
奴らは俺たちを尊敬なんかしていない
それなら驚かしてやろうじゃないか
大きいのを一発お見舞いして
粉々にしてやろうじゃないか
アジアはごみごみしてるし
ヨーロッパは古すぎる
アフリカは暑すぎるし
カナダは寒すぎる
南アメリカは俺たちの名前を盗んだし
大きいのを一発お見舞いして
俺たちを非難する奴らを消滅させてやる
訳した歌詞はこれで半分くらいだが、ランディ=ニューマンの作品には短いものが多い。これも2分1秒というとても短い作品だけれど、内容が詰まっている。
このあと、ランディニューマンらしい、落ちが来る。それは、次のような一行だ。
オーストラリアは、助けないとね
カンガルーを怪我させたくはねぇからさ
おっきなアメリカ遊園地をそこに建てて
サーフィンもやるのさ
全部を訳している紙幅の余裕はないので、この辺でやめておくが、1972年5月に発売されたこの名盤「セイルアウェイ」以上に素晴らしいと思っているのが、ランディ=ニューマンの南部をコンセプトにした"Good Old Boys”(1974)である。
また専門家の間で評判の高い”12 Songs”(1970)もある。”Land of Dreams”(1988)も私の好きな、素晴らしい一枚だ。最近では、”Bad Love”もすごくいい。
"GUILTY:30YEARS of Randy Newman"(1998)という彼の作品をまとめた4枚のCDボックスの中に小冊子が入っていて、ランディ=ニューマン自身のコトバで自分の各作品にコメントがされているのだが、この「政治学」(Political Science)という歌に対する彼のコメントは、次の通りである。
「けっして古くならない、残念なことに」(“Never out of date, unfortunately.”)
アルバム発売後の、26年ほど後に書かれたコメントとして、これほどランディ=ニューマンらしく、また時代状況を象徴したコメントもないように思う。
まさに至言である、まことに、残念ながら。