講師レイは獲物を追いかけるハンターだ

 今日はまた渓流でのレッスンだ。
 川でのフライフィッシングで、講師の技術を見る。
 湖と違って、渓流は、キャスティングの際に、広い場所が得られることが少ない。だから渓流の岸辺でのキャスティングは、下流にラインを流し、ウキであるインディケーターを少し浮かして、一回のキャストで反対側の上流にキャスティングする。そして自分に向かってラインが流れてくるのに合わせてラインを巻き戻したり(retrieve)、調節したり(mend)する。最後は、川の流れに合わせて、ラインを充分に伸ばしてやる。インディケーターがゆっくりと流れていくのがよいようだ。
 岸辺からのキャスティングに続いて、次に、川に入ってのキャスティング。
 これも一回のキャスティングで上流・下流の向きを変える。レイは猛獣使いのムチのようにいとも簡単に、一回のキャスティングで上流へ下流へと方向を変えている。
 こうしたキャスティングの際に、川の中の木や、川の上に生い茂る枝や葉っぱにラインがよく引っかかるが、講師のレイは全く気にしない。
 簡単に問題状況に対処して、何度も何度もキャスティングを続ける。
 レイはキャスティングしては、「ありゃ」(’Oh,’)「こりゃ、ダメだ」(’Oh, bugger,’)「うん、今回の方がずっといいね」(‘Much better.’)と、自分のキャスティングを自分で評価しながら、何回もキャスティングを重ねる。
 ウェイダーを着て、川に入りながら、上流に向かって歩いていくのだが、上流に向かって歩きながらも、レイはヒューヒューとロッドで空気を切る音をさせながらキャスティングを繰り返す。
 魚のあたりが少しでもあると、ロッドをすばやく合わせる。
 こうしたレイを見ていると、彼はまさに漁師(フィッシャーマン)であり、猟師(ハンター)であるということが理解できる。
 アンドリューは自分ひとりだけで釣りに出かけたが、マイケルとデイブと私とで、レイの技術を観察する。
 あたかも我々はギャラリーのようだ。
 レイは、すでに我々のことを忘れているのだろう、夢中になってキャスティングを繰り返している。
 繰り返しになるけれど、釣りに関して、彼のようなフィッシャーマンの素晴らしい技術をこうして間近で見ることができることは、とても贅沢な時間だ。