「それをやっちゃおしまいよ」という学校ぐるみの「不正行為」が教育現場で進行している。
教育に従事する者が、これほどの退廃をやってはいけないことは言うまでもない。けれど、こうした問題の根っこには、学校間競争をあおり、学力テストの結果を一人歩きさせている教育政策理念、教育行政がある。
足立区は、地域ぐるみで反対している犬山に学ぶべきだ。
学校ぐるみで成績向上「不正」の疑いも 足立区立小
2007年07月08日
東京都足立区の区立小学校で、区独自の学力テストの採点から障害のある児童3人を外したことが明らかになった。なぜ問題は起きたのか。区教委は7日の会見で「今後の調査を待ちたい」と明言を避けたが、教育関係者からは、学校ぐるみで成績を上げる「不正行為」をしていたのでは、との疑惑も出ている。
「決して平均点を上げるためだったとは思っていない」。3人の答案を集計から外したことについて、区教委はこう説明した。
学力テストは小2から中3まで原則として全員が対象だ。ただし、校長の判断で、障害がある子どもなどの答案は保護者の了解を得た上で対象外とすることを認めている。しかし、その線引きはあいまいだ。明文化されておらず、各校への説明会で口頭で1度伝えただけだ。
問題が発覚した小学校の成績は05年度、72校中44位。ところが、3人を採点から外した06年度は1位に。この両年は、同種の問題がほぼ9割を占めていた。今年度からは業者が代わり、テストの内容も変わった。5日に公表された今年度の成績は59位に落ちていた。
問題は回収されることになっているが、校長は「テストの記憶をメモにし、似たような問題を使って指導していた」と説明しているという。「不正の結果、成績が上がったのでは」という報道陣の問いに、斉藤幸枝事務局次長は「確率がゼロだとは言えないが、朝の読書などに力を入れて指導した結果だとも考えられる」と説明した。
試験中に間違った解答を見つけると教師が机をたたくなどしていたという疑惑もあり、区教委は当時の教員から聞き取りを始めている。
成績が大幅に上がった学校の存在は関係者の間でささやかれていた。
足立区の小学校に勤務経験のある50代の教諭は、授業中に過去問を何回も受けさせたり、試験中に校長自らが間違っている子の机をたたいて書き直させたりしているという話を聞いたことがある。「うちの校長も『やればよかった』と冗談で言っていたほど。でも命令されても、普通の感覚なら『おかしい』と反対するはず」といぶかる。
足立区の中学校の教諭(59)も「成績の悪い子の答案を採点しても、上にあげない学校があるという話はきいていた」という。同区は学校選択制をとっており、保護者にとっては調査結果が数少ない判断材料になっていることが「大きなプレッシャーにもなっていたのではないか」と話す。
「足立の教育を考えるネットワーク」の高須有子代表(38)は「テストの結果で学校の人気が決まるため、校長は躍起になっている。休み時間を削ってテスト勉強をさせている学校もあると聞く」と憤る。
自身も2人の子どもを区内の小学校に通わせている。「子どもたちの間で『バカ学校』『エリート校』という言葉が飛び交っている。人気校に行けない子はどう思うか。どの学校でも胸をはれるのが義務教育の良さではないでしょうか」
〈学力テスト問題に詳しい耳塚寛明・お茶の水女子大教授(教育社会学)の話〉 足立区教委は、学校の責任と教育行政の役割をきちんと分担しており、区の学力テストは、支援が必要な学校の「底上げ」を図ることに重点が置かれていたはずだ。しかし、区教委の説明どおりだと、本末転倒、その趣旨は実現されなかったことになる。底上げ以前に現場をゆがませるのであれば、学力テストの副作用が大きすぎたと考えざるを得ない。