以下、朝日新聞デジタル版(2018年3月16日19時29分)から。
前文部科学事務次官の前川喜平氏が名古屋市立の中学で講演したことをめぐり、文科省が名古屋市教育委員会に問い合わせた問題で、文科省と市教委は16日、互いに交わしたメールの写しを公開した。文科省の担当者は、前川氏が天下り問題で辞職したことなどを挙げ、学校が招いた経緯について「具体的かつ詳細にご教示ください」という表現を繰り返し使い、2回にわたって質問していた。
林芳正文科相は16日の会見で「やや誤解を招きかねない面があった」と述べ、調査を進めた初等中等教育局長を注意したことを明らかにした。一方、個別の学校の教育内容について文科省が教委に問い合わせることは地方教育行政法で認められているとして「一般的にあることだ」とした。
文科省と市教委によると、前川氏は市立八王子中の総合的な学習の時間の一環で2月、「これからの日本を創るみなさんへのエール」と題して講演。全学年の生徒に加え、保護者や地域住民も参加した。文科省教育課程課は新聞報道で講演を知り、3月1日、前川氏を呼んだ狙いなど15項目の質問を市教委にメールで送った。
メールでは、前川氏について「天下り問題により辞職し、停職相当とされた」「在任中、出会い系バーの店を利用していたことが公になっている」と指摘。そのうえで「道徳教育が行われる学校の場に、どのような判断で依頼されたのか」などと問い、講演録や録音データの提供を求めた。交通費や謝礼の有無や金額、動員があったかも尋ねた。
これに対し、市教委は5日、天下りや出会い系バーについて「講演を依頼する障害になると考えませんでした」と返答。録音提供は前川氏の了解が得られていない、として拒んだ。謝礼は交通費込みで5万円、動員はなかったと回答した。
文科省はさらに6日、「(前川氏は)自らの非違行為を理由として停職相当とされたが、校長はご認識されていたのでしょうか」「道徳教育を行う学校で授業を行ったことについて、改めて校長の見解を具体的にご教示ください」などと1回目と同趣旨のものを含む10項目余りの質問を追加で送った。市教委は7日、「辞任されたこと以上のことは知りません」「すでに述べたとおりです。今回は道徳の授業ではありません」と返答した。
林文科相は会見で、「(授業が)適切に行われたか確認が必要だと思って質問を行ったと承知している」と説明。聞き取った内容を踏まえて「法令違反は確認できていない」としながらも、前川氏自身の天下りへの関与を校長が十分に認識していなかったとして、「十分調べることなく講師に招いたことは必ずしも適切とはいえず、もう少し慎重な検討が必要ではなかったか」と述べた。(根岸拓朗)