新藤兼人監督主演の映画「陸に上がった軍艦」を観た

陸に上がった軍艦

 新藤兼人監督主演の「陸に上がった軍艦」を観て来た。
 上映初日ということで、新藤兼人監督と山本監督、他の出演者たちが舞台挨拶をおこなっていた。新藤兼人監督の体験では、あの無謀な日本の侵略戦争でほとんどの者が戦死してしまったという。出征した者たちは、それぞれ一家の中で大切な役割を負っていたはずで、その大切な人たちが戦死したということは、個が、家庭が破壊されたということだと、舞台挨拶で述べていた。
 一人ひとりの人間には、たった一度の人生を有意義に生きる権利が与えられているはずだが、新藤兼人の場合は、シナリオを書こうと決意した人生だった。そう決意した人生が、無謀な戦争で終わってしまう。シナリオを書こうと思った人生なのに、何もしないうちに自分の人生が終わってしまうという侘しさ。無謀な戦争を憎むのに、他に理由が必要だろうか。
 95歳の新藤兼人監督主演のこの映画は、なかなかの力作だ。
 戦前という時代がいかに暗黒時代であったか。
 夫婦愛も貫けない、いかに人権無視の時代であったか。
 軍隊という組織がいかに非人間的で、非文化的であったか。
 そして、戦争がいかに馬鹿げていたか、新藤監督の経験や事実をもとにして、徹底した反戦の思想でつくられていた。
 この映画は娯楽映画ではないが、ユーモアもある。
 とくに、木製の戦車に木製の爆弾を投げる場面のばかばかしさは、笑うに笑えない。阿呆らしさ、馬鹿馬鹿しさ、怒りと悲しみ。様々な感情が入り混じって、何とも言うことができない。
 いま改悪されようとしている平和憲法が、アジアをはじめとする全世界の人たちに多大な被害を与え、また、日本国内では、東京大空襲をはじめ、沖縄地上戦、広島・長崎の原爆投下によるジェノサイドと、取り返しのつかない大きな犠牲と引き換えに手に入れた尊いものであるということを、あらためて痛感させられた。
 この映画を全ての人にお薦めする。