「米軍関係者による犯罪、なぜなくならないのか 女性遺棄」

amamu2016-05-22

 以下、朝日新聞デジタル版(2016年5月22日21時38分)から。
 

 沖縄県で米軍属の男が女性会社員の遺体を遺棄した疑いで逮捕された事件をめぐり、過去にも繰り返されてきた米軍関係者による犯罪の被害者らも、悲しみともどかしさを募らせている。「なぜ事件はなくならないのか」。怒りの矛先は有効な手立てを打ち出せない日米両政府にも向けられている。

 「私は2002年、米兵に横須賀でレイプされました。私は殺されなかった。だから、私が声を上げないといけない」。東京・市谷の防衛省前で20日夕、東京在住のオーストラリア人キャサリン・フィッシャーさんが声を張り上げた。

 1980年代から日本に住むキャサリンさんは02年4月、交際相手に会うために横須賀を訪れた際、米海軍兵に強姦(ごうかん)された。警察に届けたが、刑事事件としては不起訴に。民事訴訟で04年に勝ったが、その前に米兵は米国に帰国。その後も諦めずに所在を突き止め、13年に米国の裁判所で賠償の履行義務を勝ち取った。自らの経験を踏まえ、性的暴行の被害者支援に取り組む。

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しみながらも戦い続けたのは、戦後の沖縄で米軍絡みの性犯罪が続いていることを知ったからという。今回の事件について「私を最後の被害者にしてほしいと思い、人生や家族、財産を犠牲にして活動してきた。本当に悔しい」と話す。

 事件が起きるたびに、こう感じてきた。日本政府は「怒っているふり」をし、米政府は「再発防止を約束するふり」をするが、実際の行動に結びついていないのではないか――。

 「必要なのは米軍兵士への教育。罪を犯せば決して逃げられないということを徹底して教えるべきだ」と訴える。(其山史晃)

■母は米兵に殺された

 高校3年のときだった。沖縄県名護市辺野古金城武政さん(59)は、白い布をかけられて横たわる母の姿が忘れられない。米軍属の男が逮捕された今回の事件を受け、「悔しくて仕方がない」と話す。

 辺野古にあったバーで店番をしていた母が、強盗に入った米兵にブロックで頭を殴られ、殺害された。米軍統治が終わった2年後、1974年のことだ。一家が辺野古に移り住んだのは50年代後半。米海兵隊が拠点を置くキャンプ・シュワブも、そのころにできた基地の一つだ。父は、母の反対を押し切って米兵向けのバーを開いた。

 当時、米兵による盗みやケンカは日常茶飯事だった。性犯罪の被害に泣き寝入りする人もいたが、基地があるのは仕方ないとあきらめていた。だが、母が殺され、一変した。米兵を目にすると怒りを覚えた。

 高校を出て上京。母の命日にはふるさとに向かって手を合わせた。米軍基地は沖縄から出て行って――。そんな思いを抱き続けた。

 沖縄に戻ったのは40代半ばだった。東京に伝わらない多くの米軍関係の事件や事故を身近で見聞きし、怒りが膨らんだ。

 数年後、米軍普天間飛行場宜野湾市)の地元への移設に反対する声を仲間と上げ始めた。以来、約10年、反対の行動を続ける。

 「また起きてしまった」。金城さんは今回の事件後、静岡に住む弟と電話でそんな話をしたという。3月に那覇市で観光客の女性が米兵による暴行事件にあったことをどれだけの人が覚えているか、と思う。

 「一人でも救うために、基地はもういらない」。思いが日本政府や全国の人たちに届くだろうか。不安でならない。(木村司)

■「悲しい思い、もう誰にもしてほしくない」

 「被害に遭うのはいつも女性と子どもだ」。神奈川県横須賀市山崎正則さん(68)は、沖縄で繰り返された事件に、肩を震わせた。山崎さんも2006年1月、米兵による強盗殺人事件で内縁の妻を失った。

 入籍する約束をしていた佐藤好重(よしえ)さん(当時56)は出勤途中、道を尋ねるふりをして近づいてきた米空母乗組員の男に突然襲われた。酒に酔った男は、倒れた好重さんに馬乗りになって何度も殴りつけたという。

 「10年たっても悔しい。忘れられませんよ。妻には何の落ち度もなかった。沖縄の事件で被害に遭った方と同じです」

 2人は数カ月前、現場近くのマンションを買い、一緒に暮らし始めたばかりだった。事件の日、好重さんが家を出る前に椅子にかけたエプロンは、いまもそのままだ。

 「妻が死んで、人生が180度変わった。こんな悲しい思いは、もう誰にもしてほしくない」。翌07年、山崎さんは米兵の犯罪で家族を亡くした遺族らと一緒に「被害者の会」を立ち上げた。精力的に全国で講演や支援活動を続け、米軍基地が集中する沖縄にも何度も足を運んだ。

 好重さんの事件では、米兵は無期懲役刑が確定した。しかし、山崎さんへの謝罪の言葉はなかったという。「米軍基地がある限り、犯罪はなくならない。家族がこれ以上苦しまないよう、米軍、そして日本政府は責任をしっかり認め、謝罪と補償をしてほしい」(前田基行)

■米軍関係者による刑法犯事件、およそ半数が沖縄

 警察庁沖縄県によると、全国の警察が検挙した米軍関係者(軍人と軍属、その家族)による刑法犯事件は1990年代前半、300件近い年もあった。96年に90件まで減少したが、03年に194件と増加。その後は100件前後で推移している。国内の米軍専用施設の75%近くが集中する沖縄が、そのうちのおよそ半数を占めている。