「「下村さんの問題が…」 おひざ元で元秘書現職共倒れ」

 以下、朝日新聞デジタル版(2017年7月3日21時58分)から。

 自民党が惨敗した東京都議選。その象徴と言えるのが板橋区選挙区(定数5)だ。安倍晋三首相の側近、下村博文・東京都連会長の地盤だが、自民を追い詰めた火もここから燃え広がり、下村氏の元秘書の自民現職2人は共産現職や民進現職にも敗れて共倒れした。吹き荒れた逆風の正体を探ろうと、投開票から一夜明けた街を歩いた。

 都心の最高気温がこの夏最高の32・5度に達した3日、東武東上線大山駅の東に広がる商店街で、落選した元秘書の河野雄紀氏(47)が歩き回っていた。炎天下にもかかわらず、黒い上着。表情は浮かない。

 「申し訳なかったです。また頑張ります」

 頭を下げる河野氏の後ろ姿を、自分の店先に出た男性(62)は寂しそうに見送った。選挙終盤、一緒に商店街を歩くと、河野氏は道行く人に握手を拒まれることがあった。「これまで握手を拒否する人はいなかった。本人の責任じゃないよね」と同情を寄せる。

 板橋区は下村氏の牙城(がじょう)のはずだった。板橋区が選挙区の衆院東京11区で、下村氏は連続7回の当選を誇る。都内の25小選挙区で4選挙区しか自民が勝てなかった2009年の衆院選でも議席を守った。今回は元秘書2人の再選を狙った。

 選挙戦の後半、その板橋区自民党への逆風が暴風に変わった。投開票の5日前、稲田朋美防衛相が「防衛省自衛隊としてもお願いしたい」と発言したのは、商店街から約3キロ離れた板橋区立小学校だ。投開票の3日前には、加計(かけ)学園をめぐる下村氏への献金疑惑が報じられた。

 ある自民区議は「下村さんの問題が最後に痛かった」と話す。もう一人の元秘書を支援したが、482票差で次点に泣いた。支援者からは「自民党の上の方が悪い」と慰められた。自民党都連の関係者も「下村氏のおひざ元で2人が落ちたのは、この問題がいかにマイナスだったかの象徴。連日のテレビ報道で一気に転げ落ちた」と話す。

 朝日新聞が実施した都議選の出口調査では、自民支持層は26%で、小池百合子氏が率いる都民ファーストの会支持層の24%と互角だった。しかし、自民支持層のうち自民の候補者に投票したのは7割を切った。

 選挙前、店先に自民党のポスターを貼っていた個人商店の男性(70)は民進党の候補に投じた。「自民の候補者は悪くないし、知らない仲ではない」。でも獣医学部を全国につくるなどの安倍首相の発言を聞いて、「憲法改正も独り歩き。今度は何を言い出すか分からない」と感じた。

 駅を挟んで反対側のアーケード街には、やはり下村氏の元秘書で、都民ファースト公認で当選した新顔の事務所がある。近くの店主の男性(64)は投開票日が近づくにつれて、候補者に「がんばって」と声を掛ける人が増えたと感じた。

 長年、自民党を支持してきたが、「共謀罪」法の採決強行や加計学園をめぐる弁明を見て、都民ファーストに入れた。「自民は『おごる平家』になってしまった。今のままでは国政が良くならない。牙城を崩すしかなかった」(小早川遥平、岡戸佑樹)