以下、朝日新聞デジタル版(2017年7月8日03時30分)から。
米国・ロサンゼルスに拠点を移して12年になる。
日本では40本以上の映画やドラマに主演し、俳優としての評価も確立していたのに、40代半ばにして、海外で一からの挑戦に身を投じた。
「映像や舞台の国際的なプロジェクトに、日本人が当たり前にいる時代になればいいと。まず自分が経験して駒を進めてみたいと思った」
転機となったのは、1999年から翌年にかけて、英国ロイヤル・シェークスピア・カンパニーの舞台に立ったことだった。ベテランと新人が対等に意見を交わし合い、舞台で競い合う姿に、俳優としての理想のあり方を見て、海外で活動したいという思いが膨らんだ。
米国では現地マネジャーやエージェント探しから始めなければならなかった。
「チームに入ると、『日本で何をやってきたかは知らないけどね』と言われました。でも向こうでは、誰に対してもそういう見方なんです。どんなベテランでも過去の業績に寄りかかることは許されない。毎回、新しいチームで、日々いかに信頼とリスペクトを勝ち取っていけるかが問われている」
時にはなぜこんな苦しい思いをしなきゃならないのかと思うことも。「でも自分たちの世代で道を作らないと、いつまでも時代は変わらない」
絶対に必要なのは英語力だ。シェークスピア劇では5人のコーチにつき、猛特訓した。そのときの経験を生かして、勉強を続けている。「セリフのセンテンスを書いて、ポケットに入れ、レストランでも信号待ちでも言っています。あとで映像を見て、もう100回言っておけばよかったと、後悔したくない」
この12年、ハリウッド大作から芸術的作品まで幅広く出演してきた。気鋭の監督たちから次々にオファーを受け、コリン・ファース、キアヌ・リーブスら同世代の俳優や、アンソニー・ホプキンスら名優たちとの共演も重ねた。
世界中に配信される人気ドラマにもたて続けに出演。
西洋人が描く日本人はいまだ古いステレオタイプが多い。そのイメージをただしていくのも自分の務めだと思っている。一方、国籍も人種も超えた国際人としての日本人も描かれ始めている。時代の変化と手応えを感じるという。
最新作のSFホラー映画「ライフ」では、国際宇宙ステーションに集まる、異なる国籍の6人の宇宙飛行士の一人を演じる。国を超え、地球人として地球全体を、家族を考えるという監督の哲学的なメッセージに共感した。
国境の壁が築かれようとする時代、異文化をぶつけ合って作品を作る必要を感じている。「こんな面白くてやりがいがあることはないです」
(文・林るみ 写真・時津剛)
*
さなだひろゆき(56歳)
(後略)