以下、朝日新聞デジタル版(2018年6月23日08時27分)から。
沖縄戦が終結した慰霊の日は「うーとーとー」――。数年前から、ツイッターにそんな投稿をしている沖縄県出身のタレントりゅうちぇるさん(22)。「うーとーとー」は沖縄の言葉で、手を合わせて祈るという意味です。6月23日は「慰霊の日」。地上戦の悲劇を経験した沖縄と平和への思いについて、りゅうちぇるさんが語ってくれました。
――りゅうちぇるさんにとって、6月23日はどんな日ですか。
沖縄のことをめちゃくちゃ熱心に考える一日。学校も休みになる。忘れられない一日です。
――沖縄ではどんな風に過ごすのですか。
慰霊の日が近づくと、小学校では「月桃(げっとう)」という歌を音楽の授業や朝会で歌います。戦争になっても月桃の花はしぶとく残っていたけれど、慰霊の日を待たずに全部散ってしまった、という歌です。給食には月桃の葉で包んだ「ムーチー」という餅が出ました。
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――東京で過ごす慰霊の日は、沖縄で過ごすのと違いますか。
沖縄では、若い子でも自分のおじい、おばあが戦争を経験しているから、戦争を身近に感じます。でも、東京ではそういう話題があまりない。慰霊の日は全国で学校が休みだと思っていたので、東京に来て「沖縄だけなの!」と驚きました。
――どんな気持ちからツイッターに「うーとーとー」の投稿をしたのですか。
2014年に上京してからも、慰霊の日は忘れてはいけないと思って。沖縄は太平洋戦争に巻き込まれ、地上戦になってしまった悲しみや苦しみがある。それを絶対に繰り返してはいけないという認識を、沖縄の人は持っています。
東京にいても、慰霊の日には正午に「うーとーとー」をする。お父さんからもするように言われていたし、沖縄の人にしてみたら「もちろん、当たり前さー」って感じです。
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――りゅうちぇるさん自身は、沖縄戦の経験について身内から聞いたことがありますか?
もちろんあります。戦争中、沖縄の人は米国の捕虜になることをすごく怖がったそうです。「『アメリカー』に捕まるくらいなら、爆弾で死のう」と言って集団で自決する人も多かった。そんな中、10代だった父方のおばあは、集団自決をしようとする群れから一人だけ逃げて生き残りました。母方の祖母も防空壕(ごう)に逃げて助かりました。
沖縄の人は、逃げ回ったことについてよく話します。防空壕にたどり着く前に殺されそうになったとか、いつ親とはぐれたかとか。沖縄に住んでいると、「ここでそういうことがあったんだ」と実感します。何より、今も米軍基地があるから戦争を身近に感じます。
はい、飛行場は自宅の目の前です。04年に米軍のヘリコプターが沖縄国際大に落ちた時は、その事故を目撃していました。
僕は当時、小学校3年生。友だちと本屋を出て、タコライス屋に入ろうとした時でした。ヘリが上空で5分くらいグルグル回っていて、「すごーい」って見てた。そしたら急にパッと止まって、垂直に落ちた。その光景は忘れられません。
――怖くなかったですか。
「大変だよ!」「逃げて逃げて!」と大騒ぎでした。現場が近かったので怖かったです。小さい頃から米軍ヘリや飛行機が上空を飛び、爆音を響かせていました。プールや運動場で、先生や友だちの声が聞こえないということは当たり前。でも、この事故があって、危険と隣り合わせなんだと改めて思いました。
――基地は身近な存在だったということですね。
敷地に入ったら米国で、言葉も違う。街に出れば米兵がいた。親が基地で働いている友だちもいました。
――りゅうちぇるさんの祖父は、米国の方だと聞きました。
会ったことはありませんが、戦争中に日本に来た米兵です。戦後沖縄でおばあと出会って僕のお父さんが生まれました。その後離婚して、おじいちゃんは一人、米国に帰ったそうです。
――そのことに葛藤を覚えることはありましたか。
外国人や軍人とすれ違う時に文句を言ったりするおじいやおばあを見てきたけど、僕のおばあは「戦争は人を変えてしまう。皆が皆悪い人じゃないし、皆が皆いい人でもない」と教えてくれました。米兵や祖父についてそう言っていた。すごく心が広い人です。
今も米兵が問題を起こすと「出ていけ」という人もいるけれど、米兵みんなが悪いわけじゃないと思う。だけど、戦争で傷ついている人もいるから「出ていけ」という気持ちもわかります。
――世界では今も紛争が絶えません。未来を担う子どもたちに、何を大切にしてほしいと思いますか。
友だちを「こういう人だ」と決めつけず、しっかりとコミュニケーションを取ってほしいと思います。
戦争はいじめと似ています。大事なことを十分話し合えていないのに「らちがあかない」と軍事力を使う。いじめも「勝手に決めつけて皆の力でいじめる」みたいなところがある。悲しみしか生まれないし、誰もハッピーになりません。
――もうすぐ父親になりますね。
男の子の予定で「リンク」という名前をつけようと思っています。米国のミュージカル映画「ヘアスプレー」の主人公からとりました。黒人差別などを取り上げたストーリーで、リンクは人の見た目ではなく中身を見て人を愛する子なんです。息子にはそんな子になってほしいです。
――改めて、りゅうちぇるさんにとって沖縄とはどんな場所ですか。
沖縄には悲しみにもまれた歴史があるけれど、ポジティブに明日へ向かう力がある。しぶとい、強い人が多いと思います。大変な時も「なんくるないさー(なんてことないよ)」と言ってしまう。沖縄では「いちゃりばちょーでー(出会えばきょうだい)」や「ゆいまーる(助け合い)」といった言葉も受け継がれています。それくらい、皆で支え合うという意識が強いです。
――りゅうちぇるさんもそんな感じの方です。
そうそう! すごくポジティブな感じ。もっと沖縄のことを知ってほしいから、SNSでずっと発信し続けたいと思っています。(聞き手・逸見那由子)
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〈りゅうちぇる〉1995年9月生まれ。読者モデル、タレント。2月に「RYUCHELL」として歌手デビューした。読者モデルのぺこさん(22)と2016年末に結婚。2月にぺこさんの妊娠を発表した。