「東京五輪開催は「道徳に反する」 元都立病院長が寄稿」

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以下、一ヶ月以上も前の記事だが、朝日新聞デジタル版(2021/6/9 11:00)から。

 開幕が迫る東京五輪パラリンピックは、足もとの医療現場からはどう見えるのか。東京都立松沢病院(世田谷区)で今春まで院長を務めていた斎藤正彦・名誉院長が、大会を中止すべきだと訴えている。新型コロナウイルス感染による医療体制の逼迫(ひっぱく)は同病院にも及んでおり、五輪開催は「市民の受けるべき医療に制限をかけると言っているに等しい。道徳に反する」と語る。

 松沢病院は精神科が専門だが、内科なども備えた総合病院だ。昨年4月からは、結核病棟をコロナ専門病棟として、クラスター(感染者集団)の起きた他の精神科病院や高齢者施設などから、新型コロナの患者を受け入れてきた。

 勤務する59人の医師のうち内科医は8人。感染症の専門は1人だけだった。2カ月かけて、感染症専門の内科医から医師全員が防護服の着脱や感染症の知識を学んで対処した。また、看護師だけでなく、清掃作業員、物流職員、外来窓口の職員など患者と直接触れる機会があり、感染リスクの高い現業職員をはじめ、院内の職員全員が研修を受けた。

 これまでに受け入れたコロナ患者は約300人。コロナだけでなく、褥瘡(じょくそう)や腎不全などを抱えた患者もいた。中には静かにしていられない人や認知症の人もいて、看護師らの負担は大きい。病棟をひとつ閉めてコロナ対応の看護師を増やし、院長を退いた斎藤さんもコロナ病棟を担当した。「現場はよくやっているが、相当くたびれている」と言う。

 そんな状況の中で、都立病院など公的医療機関に、医師や看護師、検査技師、薬剤師を五輪・パラリンピックに派遣するよう要請が来ているという。

 「つまり期間中は、現場のスタッフがその分減る。一般市民の受けるべき医療を制限するしかなくなる」と指摘。「そんな状況で大会を強行することが倫理的に許されるのか」と力を込めた。(編集委員・大久保真紀)

寄稿
 開幕が迫る東京五輪パラリンピックは、足もとの医療現場からはどう見えるのか。東京都立松沢病院の斎藤正彦・名誉院長の寄稿を掲載します。

     ◇

 この原稿を書いているのは6月8日である。東京五輪の開幕まであと45日、政府も東京都も、いまだに確定的な方針を示していない。ずるずると時間を稼ぎ、何とか時間切れで開催にこぎつけよう、そこまで行ってしまえばスポンサーである報道各社がお祭りムードを盛り上げ、国中が酔いしれて批判も聞かれなくなるだろう……とでも思っているのだろうか。

 しかし、不確かな未来を希望的観測で塗りつぶしてみても、不確かなものはあくまで不確かなままだ。一方で、確かな現実がある。それは、長い新型コロナ対応で、日本の医療状況が逼迫(ひっぱく)しており、社会は疲弊しているという事実である。

(後略)

 (編集委員・大久保真紀)