【karaoke】Dionne Warwick の "Walk On By" (1964)

 戦時も経験した両親と違って、戦後、どっとアメリカ文化が日本に押し寄せてきてからというもの、自分が子どもの頃、アメリカ文化のテレビドラマやポップスが溢れていた。反発を感じていた子どももいたけれど、私のように、合州国の音楽を好んだ子どももいた。それが今や全体として思考停止の状態であることが問題なのだが、問題と感じていないところがさらに問題だ。

 それはさておき、子どもの頃に耳にした洋楽の唄で、馴染みはあるのだけれど、言わんとするところがよくわからない唄というものがある。

 自分にとっては、Dionne Warwick の "Walk On By" (1964) もそんな中の一つだ*1

Walk on By (1964)

www.bing.com

 題名にも用いられて繰り返される "walk on by" が実はよくわからない。walk on や walk by なら馴染みもあるが、walk on by となるとさてピンとこない。walk も on も by も基礎語彙なのに、イメージがわかない、こうした「句動詞」(phrasal verbs)は、われわれの苦手とするところだ。

 今回初めて "Walk on By" をカラオケで歌ってみてイメージがつかめた*2

 未練の残る別れた彼氏に街で出会ったら、私のことなんて無視して立ち去っていって、あなたとの過去を思い出したくないからという女心。女性の傷心と自尊心の唄だったのだ。

 別れた男女の女心なんて今どきの唄ではないかもしれない。アレサ・フランクリンの "Respect" のほうが断然いまどきの唄だと思うが、いずれにせよ、これが流行っていた頃自分は子どもだったから、そんなメッセージがわかるはずもない。

 以下、今回訳してみた拙訳。

あなたがもし街で 通りを歩いている私を見かけたら

そして お互いを見かけたそのたびに 私が泣きだしたら

そのまま立ち去っていってよ

そのまま立ち去っていって

 

私の涙は 見なかったふりをしてね

悲しみに沈む私は ほおっておいて

なぜって あなたを見るたびに

心が折れて 泣いてしまうから

 

行ってちょうだい(立ち止まらないで)

行ってちょうだい(立ち止まらないで)

行って

 

あなたと別れたことから 立ち直れないのよ

だから 私が傷つき 悲しそうに見えたら

行って

立ち去っていって

 

くだらない虚栄心 残したものはそれくらい

だから 見ないで

あなたがくれた 涙と悲しみ

あなたがさよならと言ったときの 涙と悲しみ


もう行ってよ、行って(立ち止まらないで)

行って、私の涙は見ないで(立ち止まらないで)

もう行ってよ、行って(立ち止まらないで)

行って、私の涙は見ないで(立ち止まらないで)

もう行ってよ、行って(立ち止まらないで)

行って、私の涙は見ないで(立ち止まらないで)

もう行ってよ、行って(立ち止まらないで)

 

 語彙的な説明を加えるなら、walk on の on はもちろん「継続」をあらわしている。「歩き続けて」ということだ*3。"walk on" はポピュラーな表現だ。そして、by は、「そばに」ということ。黒人霊歌のスピリチュアルズである"Down by the Riverside" 、"Puff, the magic dragon, lived by the sea"("Puff")、"Under the boardwalk Down by the sea"("Under the Boardwalk")というように、唄にもよく用いられている。「近くに」といえば、by のほかに near も思い出されるけれど、"by the sea" と "near the sea"の違いを言えば、by のほうが身近な近さを言い、near は、そんなに遠く離れていない近くにというニュアンスがある。nearよりも by のほうは見える近さなのだ。だから、曲名にもなっている "walk on by" における彼女と彼氏との距離は、まさに「そば」の、見える距離にあるといってよい。彼女に見えている元彼に、「行ってよ」「そのまま立ち去ってよ」(walk on by)と言っているのだ。私のことなんか無視して立ち去ってしまって、あなたとの過去なんか思い出したくないからと言いつつ、未練がないわけではないということなのだろう。

 さて例によってこのポップスも次のように韻を踏んでいる箇所がある。

street / meet  

believe/ grieve

cry / by

you / blue

pride / hide

goodbye / by

 ディオンヌ・ワーウィックの「ウォークオンバイ」は、ローリングストーン誌の 「偉大な500曲」("The 500 Greatest Songs of All Time) "の 第51位に選ばれている。

www.rollingstone.com

 ハル・デイビッド(Hal David) の 歌詞に、今年2月に亡くなったバート・バカラック(Burt Bacharach)が作曲したもので、ディオンヌとの3人トリオはまさにゴールデンコンビだ。

 以下は、参考までに「ディオンヌ・ワーウィックの「ウォークオンバイ」がもつ10もの魅力」というビルボードからの記事をあげておく。

www.billboard.com

*1:Walk on By (song) - Wikipedia

*2:観客と掛け合う(call and response)1965年のライブ版dionne warwick walk on by - Bing video

や walk on by のニュアンスのよくわかるダンス付きのテレビ版もある。dionne warwick walk on by - Bing video

*3:Neil Young の唄で"Walk On"(1974)というのがある。U2にも"Walk On"(2001)というタイトルの唄がある。