ヨセミテ国立公園二日目

ヨセミテ渓谷

 スイス人のウルスは紳士だ。
 夕食を一緒にすると、西洋料理の勉強になる。
 牛肉のステーキの話となれば、いろいろな牛肉の部位を教えてもらうことになる。
 俺たちは文明開化から肉を食するようになったが、「今日は牛肉」「今日は鶏肉」くらいの認識しかない。今回はウルスからフィレミニオンなるものを教えてもらった。むしろ俺たち日本人は魚に詳しくないといけない。その魚だってよく食べるくせにそれほど詳しくないことを恥じる。
 俺は日本でチーズフォンデューやオイルフォンデューなどのスイス料理をご馳走になったことがあり、優越感のようなものかもしれないが、それ以来俺だってスイス料理くらい知ってるぞという妙な意識をもってしまった。
 クラスメートのスイス人、中国人、日本人、フランス人らで、サンフランシスコで食べ歩きをした際に、食材なら中国人がよく知っていると中華料理を自慢する中国人がスイス料理って何なのと不満をもらしたことがあった。チーズフォンデューなんて、溶かしたチーズにフランスパンをくるめるだけの料理ではないかと言うのだ。これはそれなりに説得力のある論理で認識をあらたにせざるをえなかった。それまでの俺のスイス料理に対する“高級”料理のイメージは無残にも砕かれ、スイス料理とは日本の山里のいろりで食べる田舎料理に似ているものだと思わされたのだ。田舎料理が悪いわけではなく、俺の偏見と言わなければならない。