夕飯のあと、昼間来たロトルア湖のハムラナスプリングに夜また出かけた。
夜釣りには懐中電灯やヘッドランプが役に立つ。私は二つヘッドランプを持ってきていたので、懐中電灯を忘れたデイブに私の奴をひとつ貸してやった。
ところが、どじな私は車にウェダーを積み込むのを忘れてしまっていた。全く悪意はないのだが、マイケルにまで、「バガー(bugger)」と言われてしまう始末。
講師のレイは、みなに夜釣りの指示をして、わざわざ私だけのために、また宿舎まで戻ってくれた。
往復に少なくとも30分はかかってしまう。自分のことも満足にできない釣り師とも呼べない馬鹿者のために、ここまでつき合ってくれる奴はいないだろう。全く恐縮してしまったのだが、講師のレイは全く気にしていない様子だった。
ところでレイのこの車だが、ポンコツなのによく走る。
実はホームステイ先のジュディのポンコツマニュアル車を、一度だけ許可を得て運転したことがあるのだが、とても私に運転できるような代物ではなかった。そもそもギアチェンジがどこに入っているのかわからないようなポンコツだ。こいつを運転続けたら、必ず事故死すると思って、すぐに止めたのだった。
このレイの車も、右のミラーなんかは、ひび割れたままだが、レイの説明では、こいつは日産の3000ccのモーターで、よく走ると言う。
「ガソリンは食うけどね」とレイはつけ加えた。
実際、加速といい、コーナリングといい、彼の運転は実にうまい。
こちらは郊外は時速100キロが普通だから、日本のようにお上品に運転している奴はほとんどいない。判断は的確だ。遠くから来る車でも、100キロのスピードだから、すぐに近づいてしまう。「こいつは、早い奴だ」と思うと、必ず無理せずに待っている。
レイは、いつもタバコを巻いて吸いながら、笑顔で話をするとても気持ちの明るい奴だ。彼には、釣り師の孤高の孤独癖のようなものが全く感じられない。野生児であり、自然児だ。
レイは15年くらいハミルトンでフライフィッシングの講義をもってきたらしいが、ロトルアとハミルトンへの往復は結構しんどい。今年一杯で成年学校での授業はやめるようだ。だからわれわれが最後の生徒ということになる。
彼は、二つの地方紙で、釣り情報を書いているライターでもある。