釣り宿の釣り客に励まされて私も釣りをしてみる気になった

 実は私はここに眼をぎらぎらさせて、釣りに来たわけではない。
 というのも正直言って、自分だけの力で自立的にフライフィッシングが楽しめるレベルに私はまだ達していないし、ウエーダーや網がなかったりと、道具も十分でないからだ。
 何度も来たロトルアに今回私が来た理由は、ロトルアは、インターネット環境として、まずまず問題がないこと。ロトルアなら、インターネットカフェは複数あるし、日本語も大丈夫だ。だから屋根のついた快適な宿として今回この釣り宿を選んで、文章を書いたり、写真の整理をしようと思い、いわばここに仕事をしに来たというわけだ。
 釣り談議をしている二人を横目に、ワープロを一生懸命打っている私に対して、ビルは、ここでは仕事はやめにしたらという顔つきをしていた。
 「実はフライフィッシングはレクチャーを受けたし、初心者の幸運でタラウェラ湖でレインボーを釣ったこともあるんだけど、ロサンゼルスに出かけることになって何度か授業をさぼったので、まだ自分だけでフライフィッシングをやれる力量がないんです」と伝えると、ロッドとリールを持ってきたなら問題はないと、フライはどれがいい、どこで釣ったらいいと、二人がいろいろと助けてくれた。
 彼ら二人に薦められて、私も明日の朝、釣りに出かけることに決めた。
 「車での旅だけど、2月3日に出発して、もう4700キロくらい走ってきた。もともとの計画では南島も車で訪れる計画だったんだけど、日本に帰らないといけないから、もう時間がない。ニュージーランドの規模を甘くみていました。とにかく長旅で疲れているから、眠り込んでしまって朝釣りに出かけられるかどうかわからないけど」と、私が笑って言うと、「問題ないよ。起こしてあげるから」と、爽やかにニコラスが言った。
 少年と青年の間のような年齢だが、ニコラスは、しっかり者だ。