ポールの趣味はカジキ釣り

 ところでポールの趣味は、レーシングカーと釣りだ。レーシングカーの方は、アレックスとジュディからさんざん聞かされていたが、釣りの方は聞いたことがなかった。ポールはとくにカジキ(marlin)釣りが好きなようで、カジキのTシャツを着ていた。
 お金はたくさんあっても、使いきれるものではない。だからお金をたくさん残しても仕方がない。お金は、人生を楽しむためにこそ使うべきだと、ポールは、こちらの人生哲学の典型例のような話を私にした。
 カジキ釣りは、ダイナミックだ。カジキの獲物でオスは200キロ。メスは、その倍くらいもの大きさだという。
 ニュージーランドではpiperというらしいが、オーストラリアで言うところのgarrという魚を釣り道具屋で買って、まずサバ(mackerel)を釣るという。そしてこの10キロほどのサバを餌にして、カジキ(marlin)を釣るというのだ。私は、カジキの餌にする10キロのサバで十分だと笑いながら話した。
 カジキ釣りはゲームフィッシング(game fishing)。あくまでも楽しみのための釣りだ。だから、カジキを釣り上げても、このカジキはどこどこで釣り上げたというような情報を書いた標識をカジキにつけてやって、逃がす(catch and release)という。
 カジキには、シロカジキ(black marlin)やマカジキ(blue marlin)など、四種類くらいあるらしいが、カジキは暖流を好み、クイーンズランド州の北側にぶつかる暖流が、その後、南下するらしいので、それに合わせて怠け者のカジキが流れてくるから、それをねらうようだ。
 面白い話を聞かせてもらったお礼というわけではないのだが、日本のおみやげとして、ポールに、ゴマセンベをあげたら、ゴマは食べ過ぎるとドラッグテストに引っかかることがあると言っていた。ポールの話では、娘さんのペギーもいいフィッシャーマンだという。ジェンダー論議される時代にふさわしく、女性にフィッシャーマンは変だと家族から訂正されていたけれど、釣りも上手だというペギーには、扇子とアーモンドチョコをあげることにした。
ペギーは、結婚式のために色紙を書いてあげていて、レタリングのように、文字を芸術的に書くのが好きなようだ。彼女の音楽の趣味を聞いたら、リンキンパークが好きで、ときに暴力的だけど、エミネムも理解できると言っていた。友人にはリストカットをするような同級生もいるらしく、セラピーではないけれど、そういう友達のためにレタリングをプレゼントすることもあるのとも言っていた。ペギーは、Tシャツを持ってきて大事そうに私に見せてくれたのだが、それはトンガから来た留学生が書いてくれたTシャツ一面のレタリングだった。こちらの教育は、ひとつには個人を確立することにあるが、ティーンエージャーの彼女の精神は、すでに大人に近い。これからの時代は、彼女のような自立性と柔軟性に期待する他ないだろう。
 私は今日も図書館通いだが、明日南島に向けて彼らが出発するからに違いない、今晩は、ハミルトンに住む次女のジョニとトムのところで、みんなで一緒にバーベキューだ。