高感度人間のイギリス人と話す

ボートクルージングからの景色

 これもすでに昨日のことだが、台所で朝、私がラップトップコンピュータで日記を書いていると、一人の白人男性が入ってきて、いきなり私のラップトップコンピュータを見て、「大きなコンピューターですね」と言いながら、女性のシャワールームに入った。女性用のシャワールームに入ったから清掃担当の人かと思ったら、なんと泊り客だった。朝早く海に行って入ってきて帰ってきたところだという。女性のシャワールームに入るとは、変な奴だ。
 朝飯も、オーガニックとかいって、ハミングをしながら粥のようなものを作っている。
 彼はコロマンデルには、誰もいない場所(hideaway)を探しにきたと言った。
 自分もラップトップを持ってきて、作業をしている私の横に座り、ラップトップの蓋を彼は開けた。確かに奴のコンピュータは小さい。
 「素晴らしいビーチを眼の前にして、二人でコンピュータで仕事とは、これはなかなかですね」と言いながら、彼は仕事を始めた。自分は休暇ではあるのだけれど、コンピュータを持ってきて実は仕事をしていると言った。グーグルのコンテンツをボランティアでやっているらしい。
 「買い物に行くけれど、何か買ってきて欲しいものはある」と、奴は面白い提案をする。こうした気のきいたことを言う英語の母語話者は少ない。それは通常は越権行為だからだ。つまり、やり過ぎということになる。
 だから普通こういうときは”No, thanks.”とか言って、丁寧に断るものなのだろうが、私はこの面白い男にハムとマーガリンを頼んだ。おまけに前もってお金なんか渡さないものなのだろうが、私は前もって20ドルも渡してしまった。もちろん最悪の場合、そのまま取られても諦める覚悟の上だ。どこでも常に最悪のことを考えて暮らさないといけない。
 私が駐車場の自分の車に荷物を取りにいくと、奴は歩いて「ハムとマーガリンでいいんだね」と私に確認している。歩きの彼が、車を持っている俺の買い物の手伝いをするなんて、奴はやはり面白いイギリス人だ。
 彼は先に荷物をパッキングして出発するようだ。一人旅のヒッチハイカーのようだが、ギターまで持って歩きまわっていることに少し驚いた。
 「ギターなんかもって歩いているの」と私が言うと、「こいつは俺の精神科医なんでね」と、最後の最後まで面白い奴だ。
 高感度人間の典型のような奴だった。