アルンダティ=ロイの「帝国を壊すために―戦争と正義をめぐるエッセイ― (岩波新書)」が届いていたので、ざっと読んだ。
「戦争とは平和のことである」(War is Peace.)というアルンダティ=ロイの表現は、あのジョージ=オーウェルの「1984年」で描かれた意味論的混乱を極めた皮肉的スローガンを彷彿とさせてくれて、印象に残ったところはたくさんあるのだけれど、その中のひとつに次の話があった。
アフリカ系アメリカ人が、アメリカ合州国の全人口に占める割合が12%でしかないのに、米軍全体の21%、陸軍では29%を占めていると、アルンダティ=ロイ氏は紹介している。これも氏が紹介しているように、上下員の全議員のうち、自分の子どもがイラクに派遣されているのはたった一人であり、ようするに金持ちの子どもはイラクになんか行かないのである。戦場で戦っているのは、貧しい白人、黒人、ラティーノ、アジア系の若者なのだ。
以上のことは私も知っていたけれど、「経済学者のアマルティヤ・センが調べたところでは、アフリカ系アメリカ人の集団としての平均寿命は、中国、インドのケーララ州(私の生まれたところ)、スリランカ、コスタリカで生まれた人たちよりも短い。バングラデシュの男性のほうが、ニューヨークのハーレム生まれのアフリカ系アメリカ人よりも、四〇歳に到達する可能性が高い」というのは知らなかった。これは驚くべき事実ではないか。
ハリケーン・カトリーナが自然災害であるばかりでなく、人災でもあるというのは、こうした点があるから、説得力をもつのである。経済格差の激しい合州国にあって、低所得者層は、車も持てず、街から出ることすらできなかったのだ。