小出裕明さんの「騙されたあなたにも責任がある」(幻冬舎)を読んだ

騙されたあなたにも責任がある

 今日は「子どもの日」。
 41年間、「原子力発電所の事故を未然に防ぎたい」「原子力を廃絶させたい」と願って仕事をしてきた小出裕明さんの「騙されたあなたにも責任がある 脱原発の真実」を読んだ。
 Q&A形式で書かれていて、重複も多いが、表現は平易で読みやすく、自分に基礎学力がないため未消化な部分もあるが、多くのことを学ぶことができた。

 3.11以降、「汚れた世界」が残されてしまった。大人は子どもたちを守るためにも、「汚染された食べ物」を食べるしかない。「放射能物質は、福島県を中心に日本全土に広がって」おり、さらに言えば「世界中にまき散らされてしまった」。「汚れていない」食べ物を求めても、「汚れていない」食べ物はない。「汚染の少ないものから、猛烈に汚れているものまで、連続的にあるだけ」。「汚染された食品をどうやって分配するかということだけが、私たちにできること」だと。
 その意味では、もう30年近くも前のことだが、私はある哲学者の書物から教わった、1945年のヒロシマナガサキ以来、人類は「核時代」に突入したという歴史認識をもつべきで、被害の大小の違いはあっても、全人類はすでに例外なくHibakushaなのだという歴史認識の指摘を思い起こさざるをえない。

 このほか、「騙されたあなたにも責任がある」から学んだことはたくさんある。
 たとえば「冷温停止状態」とは、「原子炉圧力容器が健全で、その中に炉心という部分が残っていて、そこに水を入れながら100度以下にする」こと。けれども、「核燃料はメルトスルーして、圧力容器の中にはない可能性が高い」。報道によれば、「比較的順調に原子炉の冷却ができている、と見えるかもしれ」ないが、炉心が圧力容器の中にないとすれば、「むしろ温度が上がるというほうがおかしい」という指摘は論理というべきものだろう。
 小出裕明さんによれば、「めり込んでいる炉心が地下水と接触することを絶つ」という意味で、事故当初から主張されている「地下にバリアーを張る」ことが緊急の課題だという。
 今後の状況悪化の可能性では、2号機・3号機の「圧力容器の中で水蒸気爆発が起きる可能性」や、4号機の使用済み核燃料プールの崩壊で半径250キロまで避難が必要になる汚染の可能性があると小出さんは指摘している。
 政府の事故調査・検証委員会の評価については、「個人の責任を追及しないと初めから委員長の畑村洋太郎さんが発言」していることを、「推進派」の「免罪」になると批判している。
 立命館大学の大島堅一さんの研究も引用しながら、原発は安全でクリーンで安いエネルギーだという論点についても「原子力が一番高い」と。それは、「政府からの資金投入を見せていない」「揚水発電のコストを加算しないごまかし」「原発特有のバックエンドコスト*1を過少評価」等の理由からと、反論されている。
 自分自身、消化しきれていない部分もあるが、小出裕明さんの著作から学ぶことは少なくない。

*1:バックエンドコストとは、「廃炉や廃棄物の処理費用のことで、原発の使用済み核燃料を再処理する時の積立金」。