朝日新聞デジタル版(2018年1月30日04時58分)から。
「廃棄した」はずの交渉関連記録、首相の妻に言及する音声データ。29日に始まった衆院予算委員会では森友学園への国有地売却が再び焦点となり、昨年の特別国会以降に判明した新事実をもとに野党は追及を強めた。政権側はこれまで通りの答弁を繰り返し、真相究明は進まなかった。
野党が矛先を向けたのは、昨年7月に国税庁長官に就任するまで答弁に立ち続けた財務省の佐川宣寿・前理財局長だ。
一つは、売却までの経緯を記した文書が残されているかどうかに関する答弁。佐川氏は「廃棄した」と説明していたが、近畿財務局が今月になって新たに開示した内部文書には「(新たなごみの)撤去費を反映させた評価額で買い取りたい」などとする学園側の要望事項や国の対応方針が明記されていた。
この日、会計検査院の報告が出る前日まで検査院にこの文書が提出されていなかったことも判明し、野党側は「佐川氏が隠した」と批判した。麻生太郎財務相は「検査の過程で気づく状態に至らなかった」「その後文書が判明し、速やかに提出した」と釈明した。
事前の「価格交渉」をめぐる答弁も追及された。佐川氏は「価格について提示したことも、先方からいくらで買いたいという希望があったこともない」と否定していた。だが昨年11月、特別国会で財務局職員が不動産鑑定の結果が出る前に「1億3千(万円)」「ゼロに近い金額まで努力」と学園側に伝えていたことが明らかになった。
立憲民主党の長妻昭代表代行は「事実と異なる答弁が連発されている」と強調。さらに佐川氏が長官就任時の会見を開いていないことや、森友問題で文書管理への姿勢が批判されたのに就任後の職員向けの訓示で「文書の管理徹底」を指示していたことも問題視した。2月に始まる確定申告を引き合いに、「国民は領収書1枚なくしても認められないのに、示しがつくのか」と疑問を投げかけた。
佐川氏を「適材適所」とする政権は、この日もかばった。佐川氏の答弁の矛盾を認めれば、その答弁をもとに手続きを「適正」としてきた安倍晋三首相の答弁の正当性も揺らぐ。
麻生氏は、会見しないことを「所管の行政以外に関心が高まっていたことから実施しなかったと聞いている。適切な対応だ」とし、「多種多様な課題の解決に当たってきた人物。引き続き職責を果たしてもらう」と語った。これに対し、共産党の小池晃書記局長は会見で、「国民の多くが(佐川氏が)税務行政の責任者でいいのかと疑問を持っている。会見しないのをよしとするのは、政権ぐるみで真相隠しをやっていると言われても仕方ない」と批判した。
与党側は同日の衆院予算委の理事会で、野党が求めた佐川氏の参考人招致を拒否。国会関係者によると、通常は国会で答弁しない「次官級」にあたると主張したという。
立憲民主党の辻元清美国会対策委員長は記者団に語った。「『佐川隠し』はやめていただきたい」(久保田一道)
昭恵氏と森友問題の関係、改めて焦点森友学園が開校予定だった小学校の名誉校長を務めていた安倍首相の妻、昭恵氏。この日の予算委では、昭恵氏と問題との関係も改めて焦点となった。
朝日新聞がノンフィクション作家、菅野完氏から提供を受けた音声データによると、森友学園は国との協議で「棟上げに首相夫人が来る」と言及し、値段を安くするよう求めていた。学園が国に土地の購入を申し入れた2016年3月ごろのことだ。国の担当者は協議の場で、新たに見つかったと学園が報告してきたごみへの補償を「きっちりやるというストーリー」と述べていた。
安倍首相は昭恵氏の名誉校長就任について「批判をいただいたことはやむを得ない」とする一方、「当時の近畿財務局長も(財務省)理財局長も妻が名誉校長をやっていることは知らなかった」と強調。昭恵氏が学園との交渉に影響を与えていないとする従来の主張を繰り返した。昭恵氏が実際に棟上げ式への出席を予定していたのかと長妻氏から尋ねられると、「突然聞かれても答えようがない」とかわした。
麻生氏も「国有地の管理処分は相手方の役職にどのような方がおられるのかに関係なく、法令に基づいて行っている」として、国の担当者による「忖度(そんたく)」がなかったと強調した。
立憲民主党の川内博史議員は「官僚の皆さんが総理の一言一言に敏感になっている」「総理の奥様が名誉校長就任を受けてしまった。そういう色んな出来事が異常な特別扱いを生んだのでは」と指摘した。(岡戸佑樹)
問われる財務省の姿勢この日は、会計検査院の検査報告前日に財務省近畿財務局の記録文書が提出されていたことも明らかになった。安倍首相は昨年3月の国会で「会計検査院がしっかり検査すべきだ」と述べていたが、財務省は存在する関係文書を存在しないものとして会計検査を受けていたことになる。
財務省は検査院に対し、遅れて提出した理由について「検査を受けた部署とは別の部署から見つかった」と説明したという。提出を受けた当時は検査結果の国会報告を翌日に控え、すでに報告書はできていた。検査院幹部は「検査結果には直接影響しない内容だが、存在していたのに提出されなかったことは望ましいことではない」と話す。
麻生氏は、文書の存在について「情報開示請求への対応の中で判明した」と説明しており、大学教授による昨年9月の開示請求が発見のきっかけだったとしている。検査院への提出は同年11月21日。特別国会中だったが、再三にわたって「記録がない」と答弁してきた財務省が存在を明らかにすることはなかった。
検査院が求めた資料提出の要求に対し、職員が故意や重大な過失により応じなかった場合、検査院は所管大臣に懲戒処分をするよう求めることができるとされている。検査院の河戸光彦院長は29日の衆院予算委で処分要求について問われたが、「事実関係を踏まえ、慎重に検討する必要がある」と述べるにとどめた。(木原貴之)