以下、朝日新聞デジタル版(2018年7月25日05時01分)から。
野田聖子総務相の事務所による金融庁への説明要求に関し、朝日新聞が同庁に情報公開請求した内容が漏れていた問題で、同庁は24日、請求者に関する情報を含めて開示決定前に総務省に伝えた、と認めた。野田氏も伝え聞いた内容を第三者に漏らしていたことを正式に認め、「慎重さに欠けたと反省している」と謝罪した。
菅義偉官房長官は24日午後の記者会見で、情報公開請求の内容が漏れることが、省庁間で常態化しているのかどうかを問われ、「ない」と否定した。そのうえで今回の事態について「あってはならないこと」と語った。
総務省によると、国の情報公開制度では、請求対象の文書に民間企業など第三者に関する情報が含まれている場合、文書の内容など最低限の情報を第三者に通知し、公開して問題がないかなど意見を求めることができる。ただ今回、金融庁が請求内容を総務省に伝えた理由は「報道される可能性が高いため」というもので制度に基づく通知ではなかった。
2016年、地方議会の政務活動費に対する請求者名が議員側に漏れる事態が相次いだ。情報公開法では、請求者に関する情報を漏らす行為についての罰則はないが、総務省は同年9月、「請求者の情報が公になれば、開示請求の萎縮や制度の信頼性の低下につながるおそれがある」などとして請求者の個人情報を不必要に共有しないよう都道府県などに求めていた。
今回、省庁や大臣がこうした注意喚起に背くような行為を自ら行っていたことになる。国家公務員法違反(守秘義務違反)に抵触する可能性もある。総務省は「(請求した)個人名までは伝えていないので個人情報保護法違反とまでは言えない。国家公務員法違反についてはコメントする立場にない」としつつ「好ましいことではなかった」との見解を示した。(角拓哉)
どの人が情報公開請求したのかは公務上の秘密で、同じ省庁でも関係するごく一部の人だけで共有されるべきだ。請求者の情報が漏れれば、請求者が萎縮する。今回漏れたのが個人名ではなかったとしても、社名を漏らしたこと自体が問題だ。政治的な意図なら一層許されない。
田島泰彦・上智大学元教授(メディア法)の話情報公開制度はメディアが権力を監視するための重要な手段の一つ。だが請求者の情報を開示前に役所間で共有したり、利害関係のある政治家に伝えたりすることで、権力側が取材への対抗策を講じる可能性も生まれる。国民の知る権利に応えるという取材の目的とは反対の結果を招いてしまう。野田氏が複数のメディアに情報を漏らしたことも、自らに不利益となる取材、報道への牽制(けんせい)が目的だったのではないか。
元経産官僚で社会保障経済研究所の石川和男代表の話重要閣僚の野田氏に不利な報道が出れば、政権に影響し、行政事務にも支障をきたすという忖度(そんたく)が、金融庁や総務省にあったのだろう。非常に重要な制度を汚したことになる。官僚は人事異動があれば、何事もすぐ忘れてしまう組織。漏出を繰り返させないために、情報公開法で漏出防止のためのルールを決める必要があるのではないか。
情報公開請求の内容が漏れた事例
2002年 福島市議会に情報公開請求した人の個人情報を記した一覧表が議会の代表者会議で配布された
04年 中部管区警察局に出向していた愛知県警幹部の出張状況などについて情報公開請求した記者の名前などがこの幹部に漏れた
10年 記者から情報公開請求を受けた山梨県議会事務局の担当者が開示前、県議3人に報告。開示の際、記者に「記事を書く際は配慮を」などと依頼