「ステーキ汚職の総務省が「リーク犯捜し」に血眼になっている」

以下、NEWSポストセブン(2021.02.26 07:00)より。

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 7万円の和牛ステーキと海鮮料理をおごってもらったことを「記憶にない」ととぼけていた山田真貴子・内閣広報官。こんな人物が総理会見の仕切り役であり、それを菅義偉・首相は続投させるというのだから、もうこの内閣の発表は何もかも信用できなくなる。

 そもそも山田氏の広報官としての強権ぶりは官邸記者たちにすこぶる評判が悪かった。会見に参加する記者たちから事前に事細かに質問内容を聞き出し、それをもとに官僚が「答弁書」を作り、菅首相はお得意のペーパー読み回答をするだけだった。こんなものは記者会見とは呼ばない。中国か北朝鮮の国営メディアのインタビューと同じである。その会見で山田氏は、政権の意に沿わない質問をする記者は徹底的に無視して、いくら手を挙げても指さない。首相の答えに納得せずに食い下がる記者を制止し、最後は「このあと日程があります」と、質問の途中でも強引に会見を打ち切って首相を逃がすガードマンの役割だった。

 そもそも首相会見は記者クラブが主催しているものだ。山田氏に司会をさせて、その傍若無人を許している記者クラブのほうこそ情けないのだが、それでも山田氏に逆らえない理由が大手マスコミにはある。それこそ、今回の菅正剛氏(菅首相の長男)による高額接待の舞台となった総務省「情報流通行政局」の存在である。

 この部署は2008年に新設された新しいセクションで、その生みの親こそ、第一次安倍内閣総務大臣を務めた菅氏だった。ここにNHKから民放、衛星放送まですべての許認可を集中させ、系列の新聞社を含めて大手マスコミに睨みを利かせる“放送マフィア”の役割を担わせた(ちなみに電波の割り当てを行う総合通信基盤局は「電波マフィア」と呼ばれる)。安倍内閣菅内閣を通じて政権がマスコミに高圧的に接し、会見は適当、NHK人事にまで介入したと疑いをかけられてきたのは、この放送マフィアの存在ゆえだ。総務省のドンである菅氏は、この局にお気に入りの菅派官僚を集め、マスコミ支配の道具にしてきた。山田氏も総務省時代に同局の局長を務めたマフィアのボスである。

 今回の事件には、菅氏のネポティズム縁故主義)が色濃く出ている。献金を受けている後援者が設立した企業に息子が就職し、その息子の前職は菅氏の総務大臣時代の秘書官であり、その際に知己を得た菅派官僚たちを接待した。そして菅派官僚は、息子の会社の事業に認可を与えていた。まさに菅派による菅派のための所業である。ここまで行政を恣意的に動かすと、当然、総務省内にもそれをおもしろくないと思う反・菅派のグループもできる。菅氏は総裁選の勝利が確実になると、官僚の人事について「反対するのであれば異動してもらう」とすごんで見せたが、事実、これまで菅氏はそうやって官僚を恐怖で支配してきた。

 総務大臣時代に菅氏が推進した「ふるさと納税」に反対したことで「菅に飛ばされた」と言われているのが、次官候補と言われながら自治大学校長に異動させられた経験を持つ平嶋彰英・立教大特任教授である。同氏は昨年9月、菅内閣の発足にあたって朝日新聞のインタビューに答えて、こう語っていた。

「こうした『異例人事』は私だけではありません。だから、いまの霞が関はすっかり萎縮しています。官邸が進めようとする政策の問題点を指摘すれば、『官邸からにらまれる』『人事で飛ばされる』と多くの役人は恐怖を感じている。どの省庁も、政策の問題点や課題を官邸に上げようとしなくなっています。(中略)菅さんは、自分に徹頭徹尾従った人には人一倍の恩義を感じ、恩義に報いようとする。逆にもし抵抗すれば、干すという方だと思います。これでは公正であるべき人事がネポティズム縁故主義)になりかねません」

 今回、総務省は問題発覚から11人の処分を決めるまで、わずか3週間程度だった。省内調査には数か月かかるのが通例で、新しいところでは農水省の鶏卵汚職では2か月を要したし、財務省森友学園文書改竄問題では3か月かかった。もちろん、これは総務省が他省より深く反省したからではない。「官邸と総務省主流派は、今回の問題を週刊文春にリークしたのは内部の人間だと疑っていた。だから、問題が発覚してすぐに、接待を受けた幹部や東北新社関係者の聴取、領収証の確認、さらにメールのやりとりまで調べる特捜部並みの調査をした。文春が書いた内容を知り得たのは誰かを炙り出そうとしたのだろう」(全国紙社会部記者)というわけだ。

 処分を発表したのちに、武田良太総務相副大臣をトップとする「検証委員会」を立ち上げると発表した。どうやらまだ犯人捜しは続いているようだ。「検証」するのが不浄官僚の行いでないことは、同省の人事を見れば明らかだ。接待を受けて更迭された秋本芳徳・情報流通行政局長の後任には、山田広報官の夫である吉田博史・官房総括審議官を充てた。吉田氏も同局の地上波課長などを歴任した放送マフィアの一角だが、異例なのは、当分の間、官房総括審議官を兼務したまま局長を務めるとされたことだ。調査をする内閣官房の幹部と調査される局長が同一人物なのだから、こんな茶番はない。放送マフィアを菅派で握り続け、一方で裏切り者を何がなんでも捜し出して報復しようということだろう。まさにマフィアさながらのやり方だ。

 大手マスコミさえ押さえておけば何でもできると驕った政官業報の密室行政は、週刊誌の記事一本でもろくも崩れた。「女は長話せずに、わきまえていろ」が信条の某元首相は表舞台を去ったが、国の大事をすべて密室で決め、「上級国民」で利権を分け合えばいいという昭和の発想は、もはや通用しないことを菅首相はまだわかっていないようだ。

■武冨薫(ジャーナリスト)