”The Night They Drove Old Dixie Down"(1969)の今日的評価

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The Band

 映画"Once Were Brothers"を2度観て感動したことから、Robbie RobertsonがLevon Helmのために書き下ろしたと思われる"The Night They Drove Old Dixie Down"(1969)について書き始めた。いろいろと調べてみると、詳細に調べないと簡単に書くことができないことがわかってきた。

 たとえば、アラバマのアーリー・ジェイムズ(Early James)というシンガーソングライターはザ・バンドのラストワルツに対するトリビュートコンサート(2020年8月3日)*1で"The Night They Drove Old Dixie Down"を演奏する際に歌詞を変えて歌ったという雑誌「ローリングストーン」の以下の記事を見つけた。タイトルは「"The Night They Drove Old Dixie Down"は名誉を回復できるか」というところだろう。

 Can 'The Night They Drove Old Dixie Down' Be Redeemed? - Rolling Stone

 

 これは"The Night They Drove Old Dixie Down"に対する評価が、政治的に見て、今日、それほど簡単ではないということを意味しているということになるのだろう。

 それはひとつに時代の変化があると思われる。当たり前のことだが、唄がつくられた60年代と今日とでは時代の意識が違ってきている。

 「ザ・バンドの"The Night They Drove Old Dixie Down"は、アメリカ連合国を支持する国歌(祝歌)なのか」という記事も見つけた。

 Is the Band’s “The Night They Drove Old Dixie Down” really a pro-Confederate anthem? (slate.com)

   「"The Night They Drove Old Dixie Down"に救済はいらない」という記事もある。

'The Night They Drove Old Dixie Down' Needs No Redemption | Saving Country Music

 

 以下のようなキャンセルカルチャー(Cancel Culture)と著者の意図についての考察もある。

The Night They Drove Old Dixie Down: Ruminations on Cancel Culture and Authorial Intent – Good Ole Boys Like Me (wordpress.com)

 The Bandの"The Night They Drove Old Dixie Down"(1969)の記事を先日書いたとき、グレイル・マーカス(Greil Marcus)の"Mystery Train"*2について触れることを忘れていた。訳本も出ていて「ミステリー・トレイン ロック音楽にみるアメリカ像」(グリール・マーカス著 三井徹訳)も書棚にある。この本について今触れることはしないが、以下の記事にも引用されていた。"Mystery Train"はすでに古典であろう。

The Night They Drove Old Dixie Down - Harvard University Press Blog (typepad.com)

 70年代にThe Bandを高く評価したGreil Marcus氏が、"The Night They Drove Old Dixie Down"を単純にアメリカ連合国の国歌(祝歌)と考えているはずがない。

 ステレオタイプ的な見方に過ぎるかもしれないが、時代の変化とともにトランプ大統領の言説が不満を抱えた相対的に貧困な白人層をとらえたように、"The Night They Drove Old Dixie Down"をアメリカ連合国の国歌(祝歌)ととらえたい人たちがいるのだろう*3。表面的・表層的にそのようにとらえて言うことができるが、歌詞にyankee, Robert E. Leeとあれば、単純にそのように考える人がいたとしても不思議でない。

 シンガーソングライターであるドービー・グレイ(Dobie Gray)もカバーしていたが、ドービー・グレイはyankeeというコトバを避けて歌っている。同じアフリカ系アメリカでもリッチー・ヘブンズはyankeeと歌っているのだが、一般にアフリカ系アメリカ人はyankeeとは歌いにくいだろう。

The Night They Drove Old Dixie Down - Dobie Gray - Volunteer Jam VI - Bing video

 さて、歌詞に歌われるthe Robert E. Leeは、人物なのか、蒸気船なのか。1865年以降、つまり南北戦争の戦後に、ロバート・E・リーがテネシー州に行ったという歴史的事実はないようだ。だからといって、theがついているから蒸気船だろうというのも単純すぎるようだ。孫引きだが、ロバート・E・リーがテネシー州に行ったという歴史的事実はないが、蒸気船ではないとリーヴォンが言っているという興味深いサイトを見つけた。

Peter Viney: The Night They Drove Old Dixie Down (hiof.no)

 物語的な話になってしまうが、歴史的事実はそうでなくともリンカーンやロバート・E・リーを見たんだという証言があるというのは物語としてよくある話ともいえる。

 いずれにせよ、"The Night They Drove Old Dixie Down"の評価は、アメリカ連合国の国歌(祝歌)と称賛する文脈は考えられないと私は思ってきたけれど、60年代の評価と違って、その今日的評価は簡単にはいかないようだ。

*1:Marcus King and Friends Give 'The Last Waltz' a Timely Update - Rolling Stone

*2:初版は1975年。私の書棚にあるものは1982年度版。

*3:しかしアメリカ連合国の国歌(祝歌)ととらえたい人たちがいたとしても、ネイティブアメリカンユダヤ系の血を引くカナダ人がこの唄を作ったと知ったら、狂信的な人たちはどのように思うのだろうか。