以下、朝日新聞デジタル版(2021/7/9 19:45)から。
加藤勝信官房長官は9日の記者会見で、飲食店に対する酒類の提供停止などの要請をめぐり、金融機関に事業者への働きかけを求めるとした政府方針を撤回することを明らかにした。西村康稔経済再生相が8日、飲食店への新型コロナ対策の一環として発表したが、飲食業界などからの批判を懸念する与党が反発。1日で見直しに追い込まれた。
政府は8日の対策本部で、東京都などに緊急事態宣言を出すことを決定。新型コロナ対応を担当する西村氏は会見で、飲食店対策の強化などを発表した。休業要請などに応じない飲食店について、「金融機関としっかり情報共有しながら、順守を働きかけていく」と表明。「関係省庁ともすりあわせている。文書で要請をしてもらうことを考えている」とも述べた。
記者団から、融資引き揚げなどの圧力をかけてほしいという趣旨かと問われると、「金融機関は日常的に(飲食店と)やりとりをしていると思う。しっかり順守していただくよう働きかけてほしい」と、明確に否定しなかった。
これを受け、金融庁は9日夕にも全国銀行協会へ依頼文書を出す準備を進めていた。政府側は「銀行法に基づく一般的な監督業務の範囲」での協力を求める構えで、金融庁も「違反店をターゲットにすることはせず、協力ベースで全体に呼びかけてもらう。飲食店などに融資制限をする趣旨ではまったくない」(幹部)などと説明していた。
だが、加藤氏は9日午後の会見で「金融機関に対する協力はお願いしないことにした」と、西村氏が発表した政府方針を撤回する考えを示した。「西村大臣に気をつけていただきたい旨を伝えた」とも語った。
金融機関を通じた飲食店への働きかけについては、自民党の森山裕国会対策委員長が9日昼、加藤氏に「国民の誤解を招かないよう気をつけてほしい」などと申し入れた。野党からは「脅し、締め付けだ」(立憲民主党の安住淳国対委員長)、「金融機関の優越的地位を行政が悪用するなんて筋が悪すぎる」(国民民主党の玉木雄一郎代表)などと批判が上がっていた。
西村氏は9日夜、BSフジの番組で、「金融機関は飲食店をはじめ、日常からコミュニケーションを取っているので、引き続き感染防止策の徹底などお願いができないかということで申し上げた」と説明。「優越的地位の乱用として受け止められる恐れもある」との声が寄せられたことに触れ、「関係省庁から金融機関に何か働きかけをすることはやらない」と述べた。(西村圭史、西尾邦明)