反教育的社会を変えるために、マスコミが、芸能界が、学校が、労働組合が、政治が、社会が、なにより国民が変わらなければならない

 ながらく教師の仕事をしてきた者として、今回の衆議院選挙の選挙結果をみて、つくづく思うことは、今の日本社会は、はたして教育的社会と言えるのかということである。

 第一に、真に教育的な社会であれば、投票率がこんなに低くてよいはずがない*1。第二に、東京24区の萩生田光一氏のような人物を小選挙区で当選させて良いはずがない。真に教育的な社会であれば、有田芳生氏こそが本来当選させるべき候補者だろう*2。第三に、自民党とカネの問題を一貫して暴いたという点で、もっと議席を伸ばしてよいはずの日本共産党が今回2議席議席を減らしている事実。真に教育的な社会であれば、ありえない現象だろう。第四に、いろいろあげればきりがないので指摘することは避けるが、今回の選挙結果で、健全な国民の批判力も一定程度発揮されたものの*3、いまの日本が反教育的社会であると言わなければ説明のつかない現象が多く散見される*4ことである。

 まず投票率で言えば、戦後長らく70%前後だった投票率は1990年頃まで続いていたが、比例代表制の併用が導入された1996年に落ち込み、自民党が下野し民主党政権が誕生した2009年に70%近くに一時的に上昇したが、最近の4回の選挙で50%台へと低迷していた投票率*5

 世代間の投票率をみると、若者の投票率の低さが顕著で、前回の衆議院選挙(2021年)では、70歳~74歳が73.27%の投票率であるのにたいし20歳~24歳の投票率は33.64%しかない*6

 ところで、今回の最終投票率がどうなったのか。ネットを検索しても、簡単にデータが出てこない*7。読売オンライン*8よれば、小選挙区投票率は53%前後で、戦後最低の2014年と「同程度の見通し」だという。

 つまり、総選挙といっても、有権者の半分の中で争っている。

 落選はもちろん、当選したといっても、国民に強く支持されたといえるのだろうかと意地悪をいいたくなるほどの低投票率なのだ。

 もちろん争点は、自民党とカネ問題。いわゆる裏金。そして、裏金議員を含めて自民党を支える創価学会、とりわけ統一協会の組織票が問題となっていることは間違いのないところだろう。

 そして、今回の選挙結果が、国民の健全な批判力が一定程度発揮され、腐敗した自民党にたいして国民が背を向けたかたちとなったことは間違いのないところだ。

 しかし、一方の憲法擁護をかかがえる立憲主義の政党はどういう結果になったのかといえば、しんぶん赤旗報道でスクープした、裏公認ともいえる2000万円支給問題で、反自民の嵐が吹き荒れ、その分、得票を増やし議席数を増やした立憲民主党と国民民主党・れいわなどにたいして、共産党は今回現有議席を2議席も減らしている。

 この原因は、マスコミが、ニュースソースであるしんぶん赤旗の功績を積極的に国民に知らせず、むしろしぶしぶ消極的にしか知らせていないために、今回の議席減という選挙結果になってしまったというように思える。

 もちろん一般有権者も巻き込んでの選挙戦だったが、自公政権の腐敗が続く中、ながらく国民の政治不信が渦巻く中で、コアな政治勢力のたたかい中心とした、有権者の半数の中での闘いであったと言えるだろう。そして、国民全体の中では政権交代を熱望するという本来自然と湧き上がってきて良いはずの熱気のない中で、2000万円という「裏公認」問題で自民党がとどめを刺され、棚からぼた餅式に、自民党以外の議席が増えたというように見える。議席増の立憲民主党ら自身が予想外といった印象すらある*9

 くり返しになるが、「裏公認」ともいうべき2000万円問題を報道したのはしんぶん赤旗だったが、現在の、偏向したマスコミ報道によって、結果的に、漁夫の利をしめたのが、立憲民主党と国民民主党・れいわではなかったか*10ということだ。

 さて、自公政権過半数割れという状況は、自公にとっては迷走のはじまりだろうが、国民の側はちっとも困らない。ミサイル配備に反対しても沖縄島民の声は無視し、能登のような被災地も救わないし、神宮外苑日比谷公園の樹木も伐採する。これで支持してくれというのは無理筋というものだ。ただ、国民の意志がバラバラでは、国民のための政治は実現されない。国民一人ひとり、叡智を結集して、よりよい明日の日本をつくっていかなければならない。

 国民全体を幸福にする経済政策とは何か。安心・安全で豊かな子育て・教育をすすめるには何が必要か。他国と安心・安全に、ともに生きるにはどうしたらよいか。平和外交をどのようにすすめるのか。原発ゼロの促進を前提にしてエネルギー政策をどうするのか。憲法にもとづいた政治とは何か。これらの課題において、国民の意志が形成されてきているという手応えとして確固としたものがつくられたという感触は残念ながらない。国民の合意形成として、迷走せず、対話と討論を通じて方向性を見い出していかねばならない。

 そのためには、マスコミが変わらなければならない。御用マスコミをやめ真のジャーナリズムの精神を発揮しなければならない。芸能界も変わらなければならない。芸能人が政治的発言をしたら干されるような水準では国際基準からバカにされてしまう。学校が変わらなければならない。将来の有権者を育てるための政治教育は臆せずおこなわれなければならない。連合など労働組合と果して呼べるものなのかというなかで、労働組合が変わらなければならない。政治が変わらなければならない。カネをもらったところに利する利権政治は許されない。情報公開は当然のこと。官房機密費など許されない。秘密裏に勝手に決めるのではなく、対話と討論をおおいに進めること。住民を無視して勝手にミサイル基地をつくったり、都市道路計画をつくったり、貴重な樹木を伐採してビルを建てるなど、島民・住民・市民無視の政治は許されない。社会が教育的社会に変わらなければならない。社会が教えあう、学び合う、教育的社会にならなければならない。そして、なにより国民が変わらなければならない。

 権力がカルトも利用して戦後一貫して躍起になっておこなってきた反共政策。その片棒をもたされている反教育的社会。今や、より良い社会をつくるために、共産党を排除したり、揶揄したり、無視したりしている余裕はない。

 このあたりのことは最低限学ばなければならない政治的教養だろうと思うのだが、こんなことも知られていないようでは、とてもじゃないが、教育的社会とは言えないだろう。

*1:権力側の反教育と言うべき「教育」が上手くいっていると言える。

*2:萩生田光一氏と有田芳生氏の激戦選挙区では、選挙日程がさらに数日あれば、自民党の落ち込みはさらにその傷口が広がり、選挙結果は逆転していたかもしれない。萩生田氏の前回14万の獲得票数は今回8万弱とおよそ半分近くまで落ち込んでいる。結果的に落選までは至らなかったが、有権者の真っ当な批判が働いたとは言える。

*3:法務大臣など、現職大臣の落選。公明党代表の落選。

*4:たとえば、ネット上で比例における各党の獲得票数の資料を見つけることができないが、どうやら国民民主・参政・保守の票が伸びているらしいことなど。

*5:衆議院議員総選挙とは

*6:衆議院選挙2024 投票率を詳しく分析 -衆院選-|NHK

*7:今回の選挙結果として、投票率や各党の獲得総数と議席占有率との比較など、検索しても、簡単に出てこない。このあたりも、わかりやすい情報公開という点で今の日本社会は課題がありそうだ。

*8:衆議院選挙:衆院選小選挙区の投票率は53%前後、戦後最低の14年と同程度の見通し…読売推計 : 読売新聞

*9:投票率とこの熱気の無さはファシズム前夜という印象すらある。

*10:とくに若者に対して国民民主党が上手く宣伝・組織している点は注意が必要。石丸氏も応援演説に回った点も注目しなければならない