"You Send Me"(1957)という唄を初めて歌ったのは、もちろんSam Cooke である。
年代的にリアルタイムで聞いたはずもないが、"You Send Me"という唄を俺が初めて知ったのは Nicolette Larson のヴァージョンで1980年代初頭のことだった。
かけだし英語教師だった頃、Neil Young の backing vocalist として Nicolette Larson を知り、"Nicolette" というLPアルバム*1を購入した。このアルバムはよく聞いたから、全曲とまではいかないが、ほぼ全曲、歌詞も覚えてしまった。そして "You Send Me" はこのアルバムの3曲目に収録されていたのだ。
Darling, you send me
I know you send me
Darling, you send me
Honest, you do, honest you do
Honest, you do, whoa
You thrill me
I know you, you, you thrill me
Darling, you, you, you, you thrill me
Honest, you do (ooh, ooh, ooh, ooh, ooh)
タイトルの "You Send Me"はいまひとつピンとこなかったが、日本の歌謡曲でいえば「君といつまでも」かなぁと、きれいきれいなスローラブソングであることはすぐにわかった。
ところが、いつまでたっても、"you send me" の "send" という基本語彙の語法がつかめず、"You send me...what?"と、もやもや感がずっと残っていた。send が「送る」という意味くらいはもちろんわかっていたから、相手の魅力があふれ出て自分に向かって伝わってくるよつなイメージかなと漠然と感じていたが、よくわからない。歌詞の中で、 "you thrill me"と次に出てくるから、"send" は "thrill" と同格、同義語だろうとしっかりとした根拠もなく勝手に考えていた。
けれども、正直、いまだに "you send me" のイメージがつかめない。
online 辞書をいくつか調べてみると、たとえば、次のようにある。
Collins Dictionary
(transitive) slang
to move to excitement or rapture
ex) This music really sends me.
Collins
US, Slang
to make very excited or exhilarated; thrill
つまり「夢中にさせてくれる」「幸せな気分にさせてくれる」といった意味で、1950年代・60年代に使われたスラングだという。とりわけジャズ音楽で用いられたようだ。現在はほとんど使われないが、意味は通じるという。
調べた中で最も参考になったのは、オックスフォード類語辞典。
7 (informal) it's the spectacle and music that send us, not the words
excite, stimulate, move, rouse, stir, thrill, electirify, intoxicate, enrapture, enthral, grip, ravish, charm, delight, give pleasure to, titillate; informal turn on, blow away, give someone a buzz/kick, stroke.
このオックスフォード類語辞典が一番わかりやすかった。
AI にも聞いてみると、次のような例文を出してくれた。
"The way you smile really sends me."
(君の笑顔には本当に夢中にさせられるよ。)"That song sends me every time I hear it."
(その曲を聴くたびに心が奪われる。)"Her voice just sends me; it’s so soulful."
(彼女の声には本当に魅了される、心に響くよ。)
さて、Honest は、文法的には、副詞だから、Honestly となるところ。"Honest, I didn’t mean to upset you."(本当に、君を怒らせるつもりはなかったんだ。)とか、 "Honest, she’s telling the truth."(本当に、彼女は本当のことを話している。)というように用いる。
"you do"の "do" は、もちろん代動詞だから、"send me" や "thrill me" の代わりに使われている。
この唄のなかで、少し難しい語彙が、"infatuation"。これは、「 一時的な夢中」な気分をいい、はじめ一時的なのぼせあがりと思っていたけど、長く続いたということで、本当の愛だと言っているわけだ。
次のオックスフォード現代英英辞典が的確に定義している。
infatuation
~(with/for sb/sth) very strong feelings of love or attraction for sb/sth, especially when these are unreasonable and do not last long
ex) It isn't love, it's just a passing infatuation.
”You Send Me” は、いまや結婚したい気分になっている自分に気づいて、相手を家に連れて帰りたい気分になっている自分に気づくというロマンチックな唄で、"you send me" の"send" は "thrill" と同意語…。
といっても、やはり "You send me…what?" というもやもや気分になってしまうのは否めない。 "you send me" よりも、"you thrill me" のほうがピンとくるというのは、俺は、英語というものが、根本のところでわかっていないということなのだろう。外国語はむずかしい。
黒人音楽文化に影響を受けたプレスリーが白人向けの音楽市場を変革してそれへの扉を開いたように、当時、音楽市場は、黒人向けと白人向けとに分かれていた。Sam Cooke も、黒人の音楽市場と白人の音楽市場をわけて、それぞれにうける歌い方をしていたようだ。"You Send Me"は、どちらかといえば、後者にもうけるソフトなバラードになっているといえるだろう*2。
Darling, you send me
I know you send me
Darling, you send me
Honest, you do, honest you do
Honest, you do, whoa
You thrill me
I know you, you, you thrill me
Darling, you, you, you, you thrill me
Honest, you do (ooh, ooh, ooh, ooh, ooh)
At first, I thought it was infatuation
But ooh, it's lasted so long
Now I find myself wanting
To marry you and take you home, whoa
You, you, you, you send me
I know you send me
I know you send me
Honest you do
(You send me) whoa, whenever I'm with you
(You send me) I know, I know, I know when I'm near you
(You send me) mmm hmm, mmm hmm, honest you do, honest you do
Whoa, I know
(You thrill me) I know, I know, I know, when you hold me
(You thrill me) whoa, whenever you kiss me
(You thrill me) mmm hmm, mmm hmm, honest you do
At first, I thought it was infatuation
But ooh, it's lasted so long
Now I find myself wanting
To marry you and take you home
I know, I know, I know, you, you, you send me
I know you send me
Whoa, you, you, you, you send me
Honest, you do (doo, doo, doo, doo, ooh)
*1:Nicolette Larson の評価は玄人評論家の間では高いものではなかった。このアルバムの評価においても高い評価を聞いたことがなかったが、当時の俺の英語のレベルでも分かり易く愛聴した。
*2:このへんの事情については、「リマスター:サム・クック」(“The Two Killings of Sam Cooke”)を観た - amamuの日記を参照のこと。