魔法瓶を買いたいのだけれど、魔法瓶って何て言うの

魔法瓶

 大学近くのウェアハウスに魔法瓶を買いにいく。重宝していたジュディの家の魔法瓶の内側が古くなって壊れてしまったため、ちょっと高めの魔法瓶をジュディの家用に、さらに私が使うための魔法瓶と、全部で二本買うためだ。
 ところで買い物の際には、私のイギリス語を辛抱強く聞いてもらうために、そして変な奴だと思われないようにするために、枕詞としていつも私は「二ヶ月くらい前に日本から来たんだけどね」と断ることにしている。この「二ヶ月くらい前に」は状況によって変わる。それで、恥ずかしながら「魔法瓶」というコトバを知らなかったので、「ジャグみたいな奴で、暖かい紅茶などを入れて冷めないようにするピクニックボトルのようなもの、ありますか」と回りくどく聞くことになるのだが、このウェアハウスの男性店員、私が「二ヶ月前に日本から来たんだけど、、、」と言い出すやいなや、「そりゃ、いいね」と例のイッツ クゥー("It's cool.")をかまして、立て続けに喋りだした。それで、まわりくどく私が買いたいものを説明していると、「あんなの言いたいこと、わかるよ」「うん、わかる、わかる」と言って、親切にその場所まで案内してくれることになった。丁寧にお礼を言うと、「大丈夫、大丈夫。全く問題ありませんよ」(No problem.)の連発。とても明るい店員さんだ。
 というわけで、魔法瓶のことをthermos flaskというのだということを初めて知った。
 もちろんこれらは中国製で、ちょっと高めの奴が14.99ドル(1050円)で、安めの奴は6.99ドル(490円)だった。この安売り雑貨のチェーン店で扱っている商品は、なんといってもmade in Chinaである。人件費の高い日本製が入り込む余地はないだろう。品質やおしゃれ度ではどうかといえば、日本製とは全く違う製品くらいに言ってもよいけれど、実質本意のニュージーランド人にとっては、圧倒的に中国製の方が有利だ。
 昨日たまたまスーパーの近くのカフェバーでランチを食べたのだが、ウェイターとワインの話になって、ニュージーランドでは、ワインはコルクでなく、まわして開けるタイプがポピュラーになりつつあると言っていた。その方がコストが安いからだそうだ。
 「でも、ワインは、コルクの方が保存方法にしても、見た目もかっこいいよね。少なくとも日本じゃ受けないと思うんだけど」と私が言うと、「そう、ニュージーランド国内じゃ構わないのだけれど、ヨーロッパや日本に輸出する場合などは、検討しているみたいですよ」と言っていた。ワインの栓をキリキリ回して開けるタイプの方が安いワインというイメージは、どうやらニュージーランドでは当てはまらないようだ。それほど、ニュージーランドは、実質主義で、カッコをつけないのである。
 レジで魔法瓶の支払いを済ませようとするときに、マオリ語のクラスメート、ハワイ出身のアリスを見かけた。
 「魔法瓶を壊しちゃってね」と私が言うと、「魔法瓶って、結構壊れやすいから、気をつけてね」と返された。実際、私は壊れた魔法瓶の内側を指でなでて、右手の人差し指を7ミリほど切っていた。アリスは頭のいい奴だ。言語学専攻らしいが、ワイカト大学(The University of Waikato)では政治学を取っていると彼女はクラスで言っていた。お互いに金曜日には、マオリ語による発表だ。「頑張って(Good luck)」と互いに挨拶をして別れた。
 ウェアハウスのレジで支払いを済ませる際に、世話になった例の男性店員を遠くに見かけたので、手で合図をしてお礼の挨拶をした。