釣り宿に戻ると、フライフィッシングの講師のレイがいた。ロサンゼルスに滞在してたから、久しぶりにの再会だ。
オキーフで、レイの兄弟に会ったよと言って、もらった名刺を見せたら、笑いながら「奴は本当の兄弟じゃないよ」と言う。
いわゆる釣り仲間で、よくデタラメを言う奴なんだと続けた。なんだ、店中で、ほら(bullshit)を吹いて俺をかついだわけね。まぁ他愛もない嘘だから許せる範囲だけれど、なんとも楽しい連中だ。
釣果はなかったようだが、フライフィッシングクラスの同級生のアンドリュー(仮名)はすでにウェーダーを着て、渓流に自分ひとりで行って来たようだ。
マイケル(仮名)、デイブ(仮名)も既に到着していたので、早速、講師のレイと一緒に、四人で夕方の川の釣りに出かけることになった。
ウェーダーを着て、ロッドを持つと、いっぱしのフライロッダー*1になった気分だが、緑の茂みの中を進んで行くだけで、ティペット部分*2を茂みにひっかけてしまったりして、すぐにド素人であることがばれてしまう。
川に集合し、初めての実践講義が始まる。
まずは、川でのキャスティングの仕方である。
講師のレイが、まず手本を示す。
上流にキャスティングして、ウキとして使うインディケーターが流れていくのを見て、ラインを調節して、インディケーターの動きを邪魔しないように、ロッドの先端を少しだけ回すように動かしてやる。講師のレイはこれをメンディング(mending)と言っていた。そして、下流の方まで流れたら、もう一度棹を投げて(drive)やる。
今の季節のニュージーランドは、なかなか日が暮れないから釣りを楽しむには好都合だ。夕方の7時なら問題なく、8時でもまだ明るい*3。
講師のレイが模範を示したあとは、生徒が実技練習をおこなう。今回は、ひとつのロッドを使って、練習をするのは一人だけ。交代で練習する方法で、残りの生徒は、見学だ。講師のレイが、いちいち、評価を下してくれる。
キャスティングや巻き戻すレトリーブの際に、ラインがよく枝や葉っぱにひっかかったりする。
生徒のデイブが練習をしていた際に、何かにひっかかった。枝かと思って、どれ貸してみろとばかりに講師のレイが棹(ロッド)を持ったら、なんと魚が引っかかっていた。
結局バレて釣り上げることはできなかったけれど、講師のレイも「こいつ、枝と魚を間違えてやがる」とばかりに大笑いしたものだから、「デイブ、何やってんだ、お前」と、デイブも含めて、みんなで大笑いになった。
明日の朝、早起きをして、今日教えたことを同じようにやってみろとレイが言って、今夜はお開きとなった。
ということで、今日の釣果はなし。
そこへエドワード(仮名)がやってきた。
エドワードは、我々の仲間の中では、一番洒落者だ。もちろんアウトドアのファッションも決まっている。仕事の関係で遅くなったらしい。
ということで、エドワードも含めて、みんなで釣り宿に戻った。
私もロトルア市内でビールを買っておいたのだが、エドワードがたくさんビールを仕入れてきていた。
エドワードのビールを飲みながら、いろいろなことを話し合ったのだけれど、エドワードはファッションセンスはいいし、ビールを献上するなど気配りのいいところが、なかなかのやり手だ。我々の生徒仲間の中では一番気位の高そうな奴だと思っていたけれど、どうやら奴は獣医らしい。
ニュージーランドの獣医は、犬や猫だけでなく、馬、それも高価なサラブレッド*4も扱うから、高収入のようだ。奴は、5年間、ロンドンで生活したことがあるという。
アンドリューも、中国を中心にタイやあちこちの外国に出かけているほど、仕事が充実しているようだ。私もダイビングの免許は持っているが、ダイビングも昔やっていたとアンドリューは言った。
小柄のマイケルはどうやらアイリッシュのようだ。
奴は授業の最初から私に対して親切だった。マイケルはマタマタの鉱物関係の会社で働いているという。
いつも控えめなデイブは食品関係で働いているらしい。
私のことも自己紹介をして、明日の朝の釣りのために、みんなで早めに寝た。
アレックスから借りた寝袋は暖かく、すぐに私は眠りにつくことができた。