まず指摘しなければならない問題は、「従軍慰安婦」問題に関する安倍首相の発言が海外で厳しい批判を浴びている問題だ。
「官憲が家に押し入って連れて行くという強制性はなかった」(3月10日付「朝日新聞」社説)などと、強制を否定している安倍首相の発言だが、これが海外からの厳しい批判を浴びている。
ボストングローブ(The Boston Globe)に掲載された「日本にとっての心地よくない真実」(Uncomfortable truth for Japan)と題するエレングッドマン(Ellen Goodman)の書かれた エッセイでは、「最初、その名称が私の注意をわしづかみにした、慰安婦ですって。第二次世界大戦でアジアに配置された日本軍の売春宿に閉じ込め、無理やりさせた性奴隷に対して、これはなんて呼び名かしら」(“The name is what first grabbed my attention. Comfort women? What is a moniker for the sexual slaves who were coerced, confined and raped in the Japanese military brothels strung across Asia during World War II.”)という指摘から始まる。
慰安婦問題が再度脚光を浴びている理由のひとつは、カリフォルニアの代議士マイク・ホンダが若い女性たちを性奴隷にした歴史的責任を明白なかたちで認め謝罪することを求めていることであり、またひとつには、安倍首相の強制を否定する発言と当時の軍事政府の責任回避にあるとして、「こうした外交上のヘマな発言は安倍首相だけではない。彼らはそれを外交上のヘマな発言とも思っていない。」(”Abe was hardly the only one in his ruling elite to make such a gaffe. They don’t even consider it a gaffe.”)と、指摘している。
「即興かもしれないが公式の、慰安婦の方々の『心の傷』に対する共感を安倍首相は日本のテレビショーで表明した」(“On a Japanese television show he even expressed formal, if offhand, sympathy for “the injuries of the heart” of the comfort women.”)ことを紹介しながらも、日本在住のあるアメリカ人教授の次の発言を引用して、以下のように切り返している。
「一日に20人もの性的サービスを供給して、果たして『心の傷』だけで済むだろうか。子どもの生めない身体になったり、性感染症にかかったり、心理的トラウマに悩まされたりすることは必至だ」。
エレン・グッドマンは、彼女のこのコラムを「結局、慰安婦らに心の安住は多分来ないだろうが、しかし正当に扱われるという正義がなければならない」(“Maybe there is no final comfort for the comfort women, but there should be justice.”)と結んでいる。
このjusticeというコトバは実に重たいコトバだ。
前にも指摘したように、強制か否かが問題ではなく、慰安婦(comfort women)なのか性奴隷(sex slaves)なのかが問題なのである。性奴隷であれば、それは強制に決まっているというのが論理というものだ。
また、これはエレン・グッドマンのエッセイでからではないが、北朝鮮の拉致問題に熱心な安倍首相の姿勢があちらこちらでdouble standard(二重基準)と批判されているが、これはunfairということである。つまり、公平でないということであり、これも説得力に欠く「ご都合主義」(double standard)に他ならない。北朝鮮の拉致問題は現在の問題であり、慰安婦問題は過去の問題と反論をしてみても、説得力がないことは同様だ。