井上ひさし作「ムサシ」

ムサシ

 井上ひさしの「ムサシ」の単行本には、その帯に、「井上ひさしの遺志を伝える最高傑作」とある。
 井上ひさしの劇を全部観ているわけではないけれど、俺は比較的観ているほうだろう。
 それで、この「最高傑作」という評価に特別異論はない。

 死んだ者が生きている者たち(武蔵と小次郎)に説得する設定は、古典的だが、感動的だ。
 武力に対して、演劇や言葉が対峙されていて、必死に演じるしかないという方法論。
 あまりにも素晴らしい舞台であったので、再度観劇する機会をえた。途中、「腰抜け拳法」というセリフがあったが、これは「腰抜け憲法」でもあるように聞き取れてしまった。
 柳生宗矩沢庵宗彭はいい。
 人間の不幸は、「三つの毒」、すなわち、「欲ばること」「怒ること」「愚かであること」から生まれるというのは卓見である。
 武力にどう対抗するか、これからの時代は刀の時代ではないというのは、言うまでもなく現代につながなる課題である。
 
 井上ひさしさんは、劇団は船のようだと言っていたことがあるような記憶がある。
 俳優は船員たちで、演出家は船長であると。その船がしっかりするためにこそ、よい台本が必要であるのであると。
 演出家の役割。作家の役割。俳優の役割も深く考えさせられた。