「国連で「辺野古ノー」 翁長知事、国際社会にアピール」

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 朝日新聞デジタル版(2015年9月23日05時26分)から。

 スイスで開かれている国連人権理事会で、沖縄県翁長雄志(おながたけし)知事が21日(日本時間22日)、米軍基地が集中する現状を「人権侵害だ」と訴えた。米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の同県名護市辺野古への移設問題で、翁長氏が対立する日米両政府を飛び越え、国際社会に「辺野古ノー」を直接アピールした格好だ。


 「沖縄の人々は、自己決定権や人権がないがしろにされています」

 加盟国の外交官らが集まる国連欧州本部の会議場に、翁長氏の英語のスピーチが響いた。「沖縄の米軍基地は、米軍に強制接収されてできた」「日本政府はすべての選挙で示された民意を一顧だにせず、新基地建設作業を強行しようとしている」。2分間の発言枠の中で、翁長氏は沖縄の基地負担の状況を説明し、普天間飛行場の県内移設反対を訴えた。

 国連人権理事会は、あらゆるテーマの人権問題を扱う国連機構内の政府間組織。翁長氏が出席したのは、総合的なテーマを扱う定例会合だ。今回は発言権を持つ約80のNGOが2分ずつ主張を述べる中に交じり、翁長氏も発言。日本の知事のスピーチは異例だ。

 会合への出席は、翁長氏を支える市民団体や学者、企業関係者らで作るグループが半年以上前から準備してきた。翁長氏が正式に打診されたのは7月下旬。乗り気だったという。

 翁長氏の背中を押したのは、二つの「失望」だ。今年5〜6月に訪れた米国で、政府当局者や上下両院議員に辺野古移設反対を訴えたものの、「辺野古移設は唯一の解決策」という答えばかり返ってきた。8〜9月には政府と1カ月間の集中協議に臨んだが、菅義偉官房長官らは譲歩の姿勢を一切見せなかった。

 不信感を募らせた翁長氏は日米を飛び越え、国際社会に訴えることを決意。今回の発言で、両政府の態度を「ネグレクト」と表現した。日本語訳は「ないがしろ」。「無視する」というだけでなく、「責任や義務を果たさずに」という意味合いも持たせた。スイスへの機中で辞書で一語ずつニュアンスを確かめ、この言葉を2度盛り込んだ。

 ただ、そんな翁長氏のメッセージに、日本政府は今回も冷たかった。翁長氏の後に発言した在ジュネーブ日本政府代表部の嘉治美佐子大使は「日本政府は沖縄の米軍が地域社会へ与えるインパクトを減らすことに最も重点を置いている」と強く反論。その後、記者団に「米軍基地問題を人権の促進を扱う会合で取り上げるのはなじまない」と指摘した。

 国際舞台で繰り広げられた「政権対沖縄」バトル。翁長氏の発言を聞いた英国に本拠地を置く人権擁護NGO関係者は「この問題をよく知らないのでコメントできない。東京のオフィスに聞いてほしい」。あらゆる暴力被害者の保護に取り組むNGOのイラン人女性は「辺野古の問題は初めて知った」と話した。

 翁長氏の訪欧を支援した東京のNGO「市民外交センター」の上村英明恵泉女学園大教授は「民主的な選挙で住民に選ばれた知事が、先進国と見られている日本や米国による人権侵害を訴えた。知名度は低くても、インパクトはあったはず」と分析。異例のスピーチを終えた翁長氏は「沖縄が間違っているのか、日米両政府の民主主義が間違っているのか。世界に判断していただきたい」と記者団に語った。(ジュネーブ=上遠野郷、松尾一郎)